遷移金属元素Crをドープしたテトラジマイト構造を持つトポロジカル絶縁体Sb2Te3の磁性に関する基礎研究を進めている。強磁性発現に伴う諸性質の変化から強磁性発現機構を明らかにすることを目的としている。本研究の遂行により磁性トポロジカル絶縁体材料とそれを用いた素子の設計指針が明らかになることを期待している。今年度は、35%のCrをドープしたSb2Te3の評価を詳細に行った。 単結晶試料は分子線エピタキシ法により、GaAs (111)基板上に製膜した。組成分析によりCrはSb位置を置換している。磁化測定より、キュリー温度は約185 Kと同種材料に比して極めて高いこと、及びCrは3価(d電子3個)であることを確認した。磁気輸送測定は、正孔濃度10^20 cm-3台の金属的p型伝導を持つことを示す。角度分解光電子分光測定は、磁気輸送測定の結果と一致して価電子帯中にフェルミ準位が位置すること、更にはディラック・バンドが形成されていることからバンド反転が生じていることを明らかにした。X線吸収測定とX線磁気円二色測定はCr 3d電子とTe 5p電子の間の明確なp-d交換相互作用の存在を示した。 以上の実験結果を整理すると、p-d交換相互作用による正孔を媒介とした強磁性的RKKY相互作用、バンド反転に伴う強磁性的Bloembergen-Rowland機構、Goodenough-Kanamori則(Crのd電子数が半閉殻数以下、八面体配位による配位角約90度)から期待される強磁性的超交換相互作用の全てが寄与することで、極めて高いキュリー温度が実現されていることが分かった。
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