研究課題/領域番号 |
19K05243
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
大野 裕三 筑波大学, 数理物質系, 教授 (00282012)
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研究分担者 |
揖場 聡 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (90647059)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | スピンレーザー / 超格子構造 / スピン緩和 / 時間分解PL測定 |
研究実績の概要 |
今年度は、半導体スピンレーザーの基幹となる(110)面(In,Ga)As/(Al,Ga)As多重量子構造を分子線エピタキシ法(MBE)により成膜し、時間分解フォトルミネッセンス法によりキャリア再結合寿命およびスピン緩和時間を調べた。(110)GaAs/AlGaAs多重量子井戸構造では、従来報告されている結晶成長温度(~450℃)よりはるかに高い540℃まで基板温度を系統的に上げて成膜したところ、室温での再結合寿命が40nsを超える非常に高品質な量子井戸構造を得ることがわかった。また、スピン緩和時間も500℃で成膜したものは室温で6nsになるなど、良好な結果が得られた。今後のデバイス作製のうえでMBE法の最適化が完了したといえる。レーザー活性層として有望な(In,Ga)As/(Al,Ga)As構造においても、MBE法の成長条件(基板温度)を高温(~540℃)で成膜することにより、測定温度10~300Kにおいてキャリア再結合寿命が~2nsのものが得られた。これは従来の成膜条件で作ったものより約1桁長いキャリア寿命である。一方、スピン緩和時間については室温で1nsを超えるものは得られていない。温度依存性を調べると、200K付近でスピン緩和時間はピーク(~2ns)となり、それより高温側では急速に減少することが分かった。さらに結合量子井戸からなる超格子構造では、結合の強さを系統的に変えた試料を作成し室温におけるスピン緩和時間を測定したところ、結合の強い試料においてもスピン緩和時間を0.6ns程度まで延長できることを示し、超格子構造がスピン輸送層として優れていることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スピンレーザー・スピン増幅器の作成において、スピン緩和時間が長く、光学的特性にも優れた半導体量子構造を作成することは本テーマの目標を達成するうえで不可欠なものである。本年度はそのMBE法による成膜条件の最適化を図ること、また光学測定の測定系を立ち上げることを目標として進めてきた。MBE法による結晶成長では、従来(110)面方位は500℃以下の低温で成長しないと平坦な表面・界面が得られないとされて忌避されていたが、Asの供給量を最適化することでより高い温度でも比較的平坦な表面・界面が得られることが実証され、キャリア非発光再結合寿命も~40nsと極めて長くなることが示された。また、スピン緩和時間も室温で~6nsと非常に長いものが得られている。よって、本年度クリアすべき課題は解決したといえ、順調に進展しているといえる。 時間分解・偏光分解フォトルミネッセンス測定系については、今年度ストリークカメラを新調することにより、従来より約3~4桁高感度に測定できるようになった。これにより特に室温付近でも弱励起強度でフォトルミネッセンスを得ることが可能になった。 以上より、試料作製および計測装置の整備がなされたことで、初年度としては十分な成果が得られたといる。 なお、論文化は遅れているため、早急に成果をまとめて公表する予定でいる。
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今後の研究の推進方策 |
① スピン制御(In,Ga)As/(Al,Ga)As半導体量子構造の創生とスピンダイナミクスの解明 令和2年度は、令和元年度に引き続き(110)面方位 の(In,Ga)As/(Al,Ga)As量子井戸構造を作製し,スピン緩和時間を時間分解ポンププローブ法または時間分解フォトルミネッセンス分光法により調べ,より長い スピン緩和時間を実現するための成膜条件および構造設計の最適化を図る.特に,スピン依存レーザー発振の実現の観点からスピン緩和時間と同時にキャリア寿命も測定し、レーザー発振を引き起こすレベルでのキャリア注入水準でこれらを最適化する試料構造を明らかにする. ② (In,Ga)As/(Al,Ga)AsベースVCSEL構造の設計・作製 ・円偏光発振の実証 VCSEL構造を分子線エピタキシ装置で作製し,ピ コ秒モードロックレーザーを用いて円偏光パルス光で励起し,円偏光発振および閾値の減少を確かめる. ③スピン増幅の実証 VCSELを直線偏光で励起して閾値に近い状態下に置くと、微弱な円偏光照射によって発振し強い円偏光が放出されると期待される.この原理に基づいてスピン増幅を実証する.
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