研究実績の概要 |
本研究は局在スピンを介した分子運動-伝導電子間相互作用Vに関する理論的研究である.このVの構築には,Vに大きな影響を与え得る伝導(s)電子からd軌道への遷移確率(s-d散乱)を詳細に調べる必要がある.s-d散乱を調べる手法として,異方性磁気抵抗(AMR)効果がある.このAMR効果は電気抵抗が磁化方向に依存する現象である.今回我々は任意の電流及び磁化方向の場合のAMR比の計算手法を開発した.AMR比はAMR^i(θ,φ)=[r^i(θ,φ)-r^i(θ_0,φ_0)]/r^i(θ_0,φ_0)として定義され,r^i(θ,φ)は電流方向i及び磁化方向(θ,φ)のときの抵抗率である.主な結果は次の通りである. 1. ボルツマン理論を用いてr^i(θ,φ)とAMR^i(θ,φ)を数値的に求める手法を開発した.ここでr^i(θ,φ)にはs-d抵抗率が含まれており,s-d抵抗率は伝導電子からd軌道波動関数への遷移確率に相当する.d軌道波動関数はd軌道のハミルトニアンに厳密対角化法を適用することで数値的に求める.ここでハミルトニアンは,交換分裂エネルギー,結晶場エネルギー及びスピン軌道相互作用からなる. 2. 1の手法を用いて強磁性体のTransverse AMR(Tr-AMR)効果を調べた.本Tr-AMRでは電流Iは[100]方向で磁化は(100)面内にあるとし,AMR比はAMR^[100](θ,π/2)={r^[100](θ,π/2)-r^[100](0,0)}/r^[100](0,0)で与えられた.AMR^[100](θ,π/2)は,立方対称結晶場では4回対称(cos4θ)成分のみであり,正方対称結晶場では4回対称と2回対称(cos2θ)の成分からなった.なお,Fe4NのTr-AMR効果では4回対称と2回対称の両成分が実験で観測されており,本研究の正方対称結晶場の結果とよく対応した.
|