研究課題/領域番号 |
19K05249
|
研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
古門 聡士 静岡大学, 工学部, 教授 (50377719)
|
研究分担者 |
角田 匡清 東北大学, グリーンクロステック研究センター, 教授 (80250702)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 伝導電子-局在スピン間相互作用 / スピン-分子振動相互作用 / スピン軌道相互作用 / 異方性磁気抵抗効果 / 摂動論 / 厳密対角化法 |
研究実績の概要 |
本研究は局在スピンを介した分子運動-伝導電子間相互作用Vに関する理論研究である.このVの構築には,Vに大きな影響を与える伝導(s)電子からd軌道への遷移確率(s-d散乱)を詳細に調べる必要がある.s-d散乱を調べる手法として,電気抵抗が磁化(M)方向に依存する現象である異方性磁気抵抗(AMR)効果がある.我々はこれまでに不純物によるs-d散乱をもとにAMR理論を構築してきた.特にこのs-d散乱では不純物近傍の母体原子1個のd軌道への散乱を考えた.なお,d軌道の波動関数は,交換磁場,結晶場及びスピン軌道相互作用を持つハミルトニアンに厳密対角化法を適用することで数値的に求められる.2022年度は,本理論を用いて,Fe4NのIn-plane AMR (IAMR)とOut-of-plane AMR (OAMR)のM方向依存性を調べた.その結果,フェルミ準位(E_F)上のdε軌道の部分状態密度(PDOS)がE_F上のdγ軌道のPDOSより大きい場合に,計算結果が実験結果と定性的に一致することがわかった.2023年度は,このPDOSを考慮に入れた上で,Fe4NのIAMRとOAMRのM方向依存性でのピークまたはボトムについて考察を行った.なお,電流IはI//[100]方向であり,IAMRとOAMRはそのI方向のd軌道の存在確率が関与する.具体的には,dε軌道(E_F上で支配的成分)にスピン軌道相互作用を通して混ざって来たdγ軌道の存在確率が関与する.詳細は次の通りである. 1. IAMRはM//[010],OAMRはM//[001]の場合にピークを示した.各ピークはdε軌道に混ざって来たdγ軌道のI方向の存在確率が有限であることに起因する. 2. IAMRもOAMRもM//[100]の場合にボトムを示した.各ボトムはdε軌道に混ざって来たdγ軌道のI方向の存在確率が0であることに起因する.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度は「立方対称結晶場を持つFe4NのIn-plane,Out-of-plane及びTransverse AMR効果の理論的研究」を行った.この研究では,Fe4NのIn-plane,Out-of-plane及びTransverse AMR比の磁化方向依存性の実験結果を解析し,さらにそれぞれのAMR比のピーク構造の起源を単一原子のd軌道波動関数を用いて明らかにした.このd軌道波動関数は交換磁場,結晶場及びスピン軌道相互作用を持つハミルトニアンに厳密対角化法を適用することで数値的に求めた.当初,本研究を論文にまとめていたが,d軌道波動関数の磁化方向依存性を考察として加える必要が生じ,そのプログラムの開発に時間を要した.
|
今後の研究の推進方策 |
1. 立方対称結晶場を持つFe4NのIn-plane異方性磁気抵抗(AMR), Out-of-plane AMR及びTransverse AMR効果の理論的研究の論文を執筆する. 2. 伝導(s)電子からd軌道への遷移確率(s-d散乱)における不純物振動の効果を調べる. 3. スピン軌道相互作用と結晶場を考慮に入れた模型を用いて局在スピンを介した伝導電子-分子運動間相互作用を求める.
|
次年度使用額が生じた理由 |
2023年度は,不純物によるs-d散乱の散乱先であるd軌道波動関数を厳密対角化法により数値的に求めた.この数値計算は比較的小規模なものだったので既存のマシンを用いた.このため残額が生じた.2024年度はこのs-d散乱に対して不純物振動の効果を取り入れる予定である.不純物振動はこれまで理論の単純化のために取り入れられてこなかったが,実際の物質(特に有限温度)では無視できない効果となっている.不純物振動によりd軌道波動関数が変調され,その変調された波動関数は大規模数値計算によって求められ得る.以上から上記残額を大規模数値計算用コンピューターの購入のための経費として計上する.
|