研究課題/領域番号 |
19K05250
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
北尾 真司 京都大学, 複合原子力科学研究所, 准教授 (00314295)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 核共鳴散乱 / メスバウアー分光 / 高速時間分析 / 高速エネルギー分析 |
研究実績の概要 |
メスバウアー分光は、特定元素(核種)のみの情報を抽出して、電子状態や磁性、振動状態などの多くの情報を得る優れた分析手法として広く利用されており、さらに近年は、放射光を活用した新たなメスバウアー分光の実験技術が進展しているが、検出器からの信号の処理回路において、時間およびエネルギーの情報はこれまでほとんど活用されていなかった。本研究においては、メスバウアー分光の測定技術を進展させ、検出器からの信号の測定時刻と波高(エネルギーに対応)の情報を同時に記録して取得することで、多様な応用実験を目指すものである。本研究で開発すべき主要な実験技術としては、高時間分解能の検出器の開発、高速信号の処理回路の構築、大容量のデータ解析手法の確立などがあるが、これらについて本年度の実験で研究開発を進展をさせることができ、実用実験が可能であることを確認することができた。本年度における実験では、高分解能検出器としてはアバランシュフォトダイオード(APD)素子を組み立てた検出器を用いて、マルチチャンネルスケーラ(MCS)および波高時間変換器(ATC)を用いて信号処理回路を構築し、解析ソフトウェアrootを用いて解析プログラムの開発を行った。これを用いて、本年度は主としてEu-151核種を用いてエネルギー弁別が行えることを確認する実験を行い、構築された実験手法により、時間弁別とエネルギー弁別が同時に行えることを実証することができた。また、本年度は本研究で開発された手法を用いて放射性線源を用いた実験において、時間とエネルギーを同時に記録することにより、エネルギーで区別した複数のガンマ線を用いて、ガンマ線の時間スペクトルを測定する手法を確立することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度における実験においては、アバランシュフォトダイオード(APD)素子を組み立てた検出器を用いて、信号処理回路を構築し、解析ソフトウェアrootを用いて解析プログラムの開発を行った。本年度の実験により、時間とエネルギーの同時測定を行うメスバウアー分光の測定系は、おおむね実用可能であることが確認できた。またEu-151を用いたエネルギー弁別が可能であることを示す実験を行うことにより、新たな実験手法としての可能性を拡大することができた。また、今後の実験を遂行する上での、いくつかの問題点を洗い出すことができたため、今後の応用実験においてはさらなる実験手法の改善が必要であることが分かった。一つの問題としては、APDの素子は劣化しやすい特徴があり、また、素子ごとに特性が異なることから、素子からのシグナルの波高が素子ごとに異なっているが、信号処理回路系で処理するためのシグナルの波高がある特定の範囲に制限されるため、うまく信号処理ができないことがあることがわかった。これについては、今後、APD素子からの信号の波高を素子ごとに調整するための回路を導入することで、最適化を行うことを検討することとした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究はおおむね予定通り実験をすることができ、おおむね順調に進展している。しかしながら、2020年3月ごろ以降、コロナウィルスの影響で外出自粛となるなど、研究環境に支障をきたしており、本研究で予定していた2020年度前半の実験も中止または延期となることが決まっている。今後の実験の見通しが立っていないこともあり、今後の実験の進展には懸念があるが、外出自粛の期間についても、テレワークで実施可能な、検出器の設計や、ソフトウエア開発などの準備を中心としてできる限りの研究の遂行を目指すものとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に使用予定であった物品費の一部については、一部の実験装置を見直し再検討を行う必要があったことから、より適切な実験装置の構築のため、慎重に設計の再検討を行い、来年度以降に使用する予定とした。また旅費の一部については、本年度の後半にコロナウィルスの影響により予定していた実験や研究会の中止があったことから、使用額が減少した。これについても、来年度以降の実験や研究会にて使用する予定である。
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