研究課題/領域番号 |
19K05255
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
藤田 貴敏 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 特任准教授 (70767970)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | GW / フラグメント分子軌道法 / 有機太陽電池 / 励起子 |
研究実績の概要 |
本年度はフラグメント分子軌道(FMO)法の枠組みでGW/Bethe-Salpeter equation法の実装を行った。GW自己エネルギーのためには、注目しているフラグメントの分極関数だけではなく、全系の分極関数から遮蔽クーロン力を計算する必要がある。そのためFMO法で計算される局在軌道から全系の分極関数を近似する手法を考案した。さらに、フラグメント内の電子相関をGWレベルで、周囲のフラグメントの誘起分極効果をCoulomb-hole plus screened exchange(COHSEX)レベルで扱うΔCOHSEX法を提案した。分極関数のフラグメント近似とΔCOHSEX近似を用いることにより、1,000原子以上の系の準粒子エネルギーが計算可能なFMO-GW法の実装を行った。従来のGWの実装では200-300原子程度の系が限界であったことを考えると大きな進展であり、本研究によりGW法を有機半導体材料に適用するための準備が整った。 Bethe-Salpeter equation(BSE)法による励起状態計算法の実装も行った。BSE法は電子-正孔間相互作用を遮蔽クーロンとして記述するために、励起子束縛エネルギーの算出に非常に有用であると考える。ペンタセン分子の励起子束縛エネルギーに対してCIS、TDDFT, GW/BSE法で比較を行い、GW/BSE法が励起子束縛エネルギーを精度よく計算できることがわかった。また、FMO法の枠組みでGW/BSE法の実装を行い有機半導体薄膜についてのベンチマーク計算を行うことにより、FMO-GW/BSE法が分子環境による励起子束縛エネルギーの遮蔽効果を正しく記述できていることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に従い、本年度はFMO-GW/BSE法の開発とプログラム整備に注力した。当初予定していたFMO-GW/BSE法の実装は予定通り行うことができ、有機半導体薄膜やドナー/アクセプター界面に対して適用することにより、本手法の有用性を実証した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に開発を行ったFMO-GW/BSE法を、結晶性の高い有機薄膜太陽電池系の応用計算を行っていきたい。具体的にはフラーレン系と非フラーレン系の電子アクセプターで比較することにより、非フラーレン系で電荷再結合が抑制されている原因を解明する。今後は励起状態計算ために界面構造の作成を行う。具体的には力場を使った構造最適化や分子動力学シミュレーションにより、ドナー/アクセプター界面の構造作成を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では研究室で保持しているクラスタのノードを増設することにより計算機資源を確保することを予定していたが、共同利用のスパコンのCPUタイムを予想以上に確保できたことから、今年度はノードの増設を見送った。今後の応用計算を進めるための計算機資源の確保に予算を割り当てる予定である。
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