研究課題/領域番号 |
19K05256
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
大井 修一 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主任研究員 (10354292)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | vortex / Bi2212 / Josephson junction / SQUID |
研究実績の概要 |
銅酸化物高温超伝導体Bi2212単結晶は、超伝導層と絶縁層が交互に積層した層状の結晶構造をもち、天然の原子層ジョセフソン接合(固有ジョセフソン接合)を内蔵する。Bi2212を面内幅で数ミクロン以下まで微小化すると、層間の電気抵抗測定により磁束量子が侵入する様子を検知できる。さらに、単一孔を導入することで、磁束量子の逐次侵入が磁気量子抵抗振動として観察される。その振動の様相は従来の超伝導量子干渉計(SQUID)と似ているがメカニズムが異なり、磁気センサーとして応用の可能性がある。また、人為的にジョセフソン接合を作らずとも天然の良質接合が利用できる利点がある。本研究では、両面微細加工により3次元的に試料形状を工夫することや高周波測定により、この磁気抵抗振動と、誘起されたジョセフソン磁束やパンケーキ磁束の静的状態や熱揺らぎ、フロー状態といったダイナミクスとの関係を理解し、新規な超伝導磁束量子デバイスへとつなげることを目的とした。 昨年度導入したマスクレス露光装置とFIB加工の2段階プロセスが未達であるが、本年度はFIBを用いた微細加工試料での低周波振動磁場に対する応答や、有限要素法や分子動力学法によるシミュレーションによる微小超伝導体中の磁束量子配置の検討のほか、予備的に磁束量子や磁場分布の直接観察を目指して磁気光学イメージングによる可視化を試みた。特に、磁気光学法で超伝導ニオブ中の磁束状態を観察したところ、磁束量子が凝集した磁束バンドル状態の形成が確認された。そこで、ニオブ上に貼りつけたBi2212複合系を準備し、この現象を用いてBi2212中の磁束量子の操作を試みた。ニオブ内に形成されるバンドルに引きずられてBi2212中でも磁束バンドルが観察され、ニオブ中の磁束量子とともにBi2212中の磁束量子が運動する様子を可視化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
収束イオンビーム (FIB) 装置を利用した試料加工に加え、大面積でより効率的な試料加工を目指して、昨年度Bi2212単結晶加工のためのプロジェクション方式のマスクレス露光装置を導入した。この露光装置を用いた光リソグラフィとFIBを組み合わせた加工プロセスを考案していたが、Arイオンミリング装置にトラブルが発生し、現状未達成である。イオンミリング以外のエッチング方式として、様々なエッチャントによる湿式プロセスの条件出しを進めている。FIBのみを使用して加工した試料においては、100Hz程度の比較的低周波数の交流磁場による単一孔をもつ固有ジョセフソン接合の応答を調べた。70K付近を境界として低温側でヒステリシスが顕著であったが、高温側ではきれいな正弦波的応答を得ることができた。 一方、静的な磁束量子配置や磁場分布を調べるために、磁気光学イメージングによる直接観測実験を予備的に行った。高純度ニオブを用いた観察では、磁束量子が凝集した磁束バンドル状態を確認できた。Bi2212/Nb複合系を貼り合わせ法により準備し、ニオブ中の磁束バンドルを用いた磁束量子制御を試みた結果、100nmより薄い試料ではBi2212中の磁束量子がNb中のバンドルに引きずられて運動することが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、2段階露光によるリソグラフィーとイオンミリング、FIBによる最終加工という一連の両面加工プロセスを達成する。任意の形状の固有ジョセフソン接合スタック形成を効率よく進め、より本質的な現象の把握に努める。超薄膜化による接合数制御や3次元形状の工夫、異方性制御、レーザー照射による局所加熱により、単一磁束侵入への表面バリアやピン止めの寄与を明らかにする。 磁気振動について、綺麗な周期振動(均一な周期性、大きな振幅、可逆性)がみられる条件(試料形状、異方性、温度・磁場、測定周波数レンジ)を見出す。これを用いて磁気センサー開発や計算機シミュレーションによる解析を進める。また、立ち上げた磁気光学イメージング法による直接観察を高度化し磁束状態の実時間実空間観察によりBi2212中の磁場のダイナミクスを可視化し、より詳細な情報を得たい。
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備考 |
https://samurai.nims.go.jp/profiles/ooi_shuuichi?locale=ja
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