• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2019 年度 実施状況報告書

軌道ラシュバ効果や軌道モメント輸送によるスピン操作に関する研究

研究課題

研究課題/領域番号 19K05258
研究機関国立研究開発法人理化学研究所

研究代表者

金 俊延  国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 研究員 (50753646)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2022-03-31
キーワードスピントロニクス / 軌道モメント / ラシュバ効果 / スピン操作 / スピンデバイス / 酸化物界面 / スピン共鳴 / スピン軌道トルク
研究実績の概要

本研究では高効率のスピンデバイス製作を目指して、非磁性金属/酸化物の軌道ラシュバ界面を持つ磁性三層膜における軌道モメントの生成や輸送また軌道モメントによるスピン操作に関する研究を行う。特に当年度には界面や磁性体の物質特性に依存するスピン操作の効率性に関する研究を主に行った。スピン操作の効率性は磁性膜の磁化変化によるスピン応答を通じて調べる。
1.界面構成物質に依存する磁化変化-当年度の研究ではさまざまな界面を用いて軌道モメントによるスピン操作(磁性膜の磁化変化)を調べた。その結果、先行研究からのCu/Al2O3界面を含めて、Cu/MgO、Cu/SiO2、またAg/Al2O3などのさまざまな界面において生成される軌道モメントが非常に効率的なスピン操作を起こすことを観測した。このような結果は軌道モメント由来のスピン操作が非常に幅広い物質系において発生できることを示す。今後、より精密な物質評価を通じて軌道モメント発生や輸送の学理の構築に取り組む。
2.強磁性体に依存する磁化変化-当年度の研究では熱処理による磁性膜の変調で向上する磁気特性に伴い、軌道モメントによる磁性体の磁化変化がより効率的に達成されることを発見した。物質評価観測を通じて熱処理が強磁性体の結晶性や強磁性体/非磁性金属界面の質の向上を起こすことが分かった。理論的には熱処理による磁気特性向上は時間対称性の向上に導いて軌道モメントの緩和を抑えると考えられる。以上の結果は一般的なスピン輸送とは違う特色ある軌道モメント輸送を示す。今後はより多様な磁性物質における軌道モメントによる磁化変化を調べる。
3.軌道モメントが起こす磁化反転ー当年度の研究で、軌道モメントによる磁気反転を成功的に達成した。本研究ではCoFe/Cu/Al2O3の磁性三層膜に直流電流と若干の外部磁場を印加し、系統的に磁気反転が起こることを観測した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

当年度で目標した研究課題は概ね(i)構成物質に依存する軌道モメントの発生と(ii)強磁性体に依存する軌道モメントの輸送で分けられる。当年度の研究活動を通じて当初の研究目標を概ね達成した。その詳細は次のようである。
1.構成物質に依存する軌道モメントの発生ー軌道モメントの生成を決める要素を取り出すことは将来の応用のため核心的な問題である。当年度には先行研究で効率的な軌道モメントの生成が確認されたCu/Al2O3界面と類似なCu/MgO、Cu/SiO2、Ag/Al2O3などの界面を用いて軌道モメントによる磁性膜の磁化変化を観測した。その結果Cu/Al2O3界面からの結果と比べ、Cu/MgO、Cu/SiO2界面の場合はより効率的な磁化変化、Ag/Al2O3界面の場合はほぼ同じい効率性の磁化変化が観測された。磁化変化のため軌道モメントの生成と輸送が共に影響を及ぼすため、磁化変化の効率性と軌道モメントの生成の効率性が等しいわけはない。ただし、Cu/MgO、Cu/SiO2界面においても非常に効率的な磁化変化を起こすため十分な軌道モメントが生成されることは間違いない。今後、より精密な物質評価観測を通じて軌道モメント生成と物質特性の関係に関する学理を構築する。
2.強磁性体と軌道モメントの輸送ー当年度にはCoFe/Cu/Al2O3三層膜の熱処理のため変わる磁化変化の効率性を調べった。熱処理温度が上がるとCoFeの結晶性やCoFe/Cuの界面の質が向上することが分かった。それに伴い飽和磁化も増加し、磁化変化の効率性が大幅に大きくなることも分かった。このような結果は軌道モメント輸送が界面状態と時間対称性に敏感に変わることを示す。このような研究結果は軌道モメントの特色ある描像を明らかに示す。
3.軌道モメントによる磁化反転を成功的に達成した。これは軌道モメントが将来の応用に有用に使えることを示す。

今後の研究の推進方策

今後は当年度の研究結果を基盤にして当初の研究計画に沿いて研究活動を推進する。次年度には当年度の(i)物質に依存する軌道モメントの発生と(ii)強磁性体に依存する軌道モメントの輸送、に加えて(iii)外部電場に依存する軌道モメントの生成や輸送に関する研究を始める。当年度と等しくスピン応答は磁気共鳴や磁気抵抗を用いたさまざまな実験手法を利用する。各研究主題の詳細は次のようである。
1.物質に依存する軌道モメントの発生ー当年度のCu/MgOなどのさまざまな界面における軌道モメント生成などの研究結果を基づいて、軌道モメントの生成や輸送の一般的な物理的説明を構築する。そのため、次年度には電子顕微鏡やX線分光観測などの物質状態に関する実験的な研究や理論計算の共同研究を同時に行う。また、より広い範囲の物質研究を通じて学理確立や新物質開拓を向けて研究を行う。
2.強磁性体に依存する軌道モメントの輸送ー当年度までは熱処理で強磁性体や強磁性体/非磁性金属の界面を変調させて研究を行った。次年度以降には強磁性体の膜厚、さまざまな磁性状態、合金を通じた物質変調などに依存する軌道モメントの輸送やスピン操作を調べる。本研究主題においても薄膜や界面に関する物質観測や理論計算の共同研究を行い、特色ある軌道モメントの輸送の描像の物理的な説明を構築する。
3.外部電場に依存する軌道モメントの生成や輸送ー外部電場は界面の電場に加えて界面近傍においては化学ポテンシャルにも影響を及ぼす。そのため、軌道モメントの生成や輸送を同時に変調させることができると本研究者は予想している。次年度には外部電場の印加に依存するスピン操作実験研究のためサンプルのデザインや製作、また実験手法の確立に取り組む。

次年度使用額が生じた理由

物品購入には足りえない少額が余った。次年度予算に余った金額と合わせて2,102円以上の少額物品の購入に使うつもりである。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2020 2019 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 産業財産権 (1件) (うち外国 1件)

  • [国際共同研究] Pohang Univ. of Sci. and Tech.(韓国)

    • 国名
      韓国
    • 外国機関名
      Pohang Univ. of Sci. and Tech.
  • [国際共同研究] Forschungszentrum Julich and JARA/Johannes Gutenberg University Mainz(ドイツ)

    • 国名
      ドイツ
    • 外国機関名
      Forschungszentrum Julich and JARA/Johannes Gutenberg University Mainz
  • [雑誌論文] Spintronic devices for energy-efficient data storage and energy harvesting2020

    • 著者名/発表者名
      Jorge Puebla, Junyeon Kim, Kouta Kondou & Yoshichika Otani
    • 雑誌名

      Communications Materials

      巻: 1 ページ: 1-9

    • DOI

      10.1038/s43246-020-0022-5

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Orbital torque in ferromagnetic metal/Cu/Al2O32020

    • 著者名/発表者名
      J. Kim, D. Go, H. Tsai, D. Jo, K. Kondou, H. Lee & Y. Otani
    • 学会等名
      New Perspective in Spin Conversion Science (NPSCS2020)
    • 国際学会 / 招待講演
  • [産業財産権] スピントルク発生素子、その製造方法、及び、磁化制御装置2019

    • 発明者名
      大谷義近、金俊延、近藤浩太
    • 権利者名
      大谷義近、金俊延、近藤浩太
    • 産業財産権種類
      特許
    • 産業財産権番号
      JP2019/042137
    • 外国

URL: 

公開日: 2021-12-27  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi