研究課題/領域番号 |
19K05260
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高桑 雄二 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (20154768)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | リアルタイム観察 / 光電子分光法 / 急昇温 / 急冷 / 熱膨張係数 |
研究実績の概要 |
(a)Si(001)2×1表面の長周期構造を400℃から800℃へと急昇温とその後の800℃でのアニール処理過程をRHEED法でリアルタイム観察し、ダイマー構造に起因する回折スポットの急激な減少と緩やかな回復を観察した。その原因として急昇温中の熱歪みがダイマー破損と再結合、さらにはダイマー空孔がランダムな表面構造をもたらす物理モデルを構築した。 (b)Si(001)2×1表面構造のランダム化はRHEED観察の電子プローブ照射によっても誘起されることを見出し、熱歪みだけでなく、電子注入によっても顕著な表面構造変化がもたらされることを明らかにした。電子プローブ照射を中断すると2×1構造の周期性と表面平坦性の回復がみられるので、ダイマー構造の破損だけでなく、ステップから放出されるSi吸着原子も電子誘起表面構造変化の原因と考えられる。 (c)Si(001)表面の酸化過程で基板温度を急昇温・急冷することによりSiO2膜成長が促進されることを見出し、SiO2膜とSi基板の熱膨張係数の差による熱歪みによる点欠陥が重要な役割を見なっていることを明らかにした。p型とn型Si基板の酸化速度の比較、さらには軟X線照射による電子-正孔対生成の役割から点欠陥サイトでのキャリア捕獲が酸化促進と結びついていることを解明した。 (d)Ni(111)表面に形成したNiO膜を350℃から700℃への急昇温により還元を促進でき、真空に比べてH2雰囲気中で著しく還元されることを見出した。これはNiO膜とNi基板の熱膨張係数の差によりNiO膜に引っ張り歪みが発生し、NiO膜表面への酸素拡散が促進され、真空中ではO2脱離、H2雰囲気中ではH2O脱離が促進されるためと考えられる。とりわけ、NiO膜表面近傍で還元により生じたNiクラスターがH2解離吸着の活性サイトとして機能し、還元促進の中心的な区割りを担っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Si(001)2×1表面の急昇温と電子プローブ照射による表面構造変化をRHEEDでリアルタイム観察できた。Si(001)表面の2×1ダイマー構造は表面溶融する1200℃近傍まで熱力学的に安定であるが、比較的低温領域の400-800℃での急昇温でも熱歪みによりダイマー破損が生じることが分かった。 SiO2/Si界面でも急昇温だけでなく急冷でもSiO2膜成長が促進されることが見出され、ヘテロ界面での熱歪みによる点欠陥発生が化学反応と結びついていることが示された。NiO/Ni(111)界面でも急昇温により顕著な還元促進が見出され、熱歪みによる酸化膜中での原始輸送に与える影響が解明できた。 今後は急昇温速度への界面反応過程の依存を調べることが重要である。さらには急昇温による表面と界面構造の変化と電子状態の変化を結びつけることにより、熱歪みによる界面反応キネティクスの制御を解明することが重要である。
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今後の研究の推進方策 |
(a) 2019年度にSPring-8のBL23SUに設置されている表面化学反応解析装置に赤外線照射による試料加熱機構の整備が行われた。そのため高輝度放射光を用いたX線光電子分光法により急昇温過程の電子状態と化学結合のリアルタイム観察が可能となった。このシステムを用い、Si(001)2×1表面の急昇温過程について、Si 2p内殻準位と価電子帯の光電子スペクトル測定から、電子状態の変化を解明する。RHEED観察と比較することにより、熱歪みとキャリア注入による過渡的な表面構造変化の原因を解明する。 (b) SiO2/Si(001)界面の急昇温による分解過程のXPS観察から、熱歪みにより発生した点欠陥とSiO2膜の反応キネティクスを解明する。 (c) 周期的な急昇温と急冷の繰り返しによりSiO2/Si(001)界面のSiO2膜成長過程を解明する。これにより極薄SiO2膜成長で用いられているRTO(Rapid Thermal Oxidation)の反応機構を明らかにする。 (d) Ni(111)表面の酸化・還元の急昇温速度への依存を系統的に調べることにより、熱歪みがもたらすNiO酸化膜中での原子・イオン輸送過程を解明する。比較のために、Zr金属の酸化・還元への急昇温の役割を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年2-3月より新型肺炎流行により国内だけでなく海外の学術講演会も注視されているため、2019年度の講演発表件数が減っただけでなく、2020年度の国内と海外発表の予定は見通すことができない。それにより2019年度の研究費の一部が2020年度に繰り越すことになった。
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