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2020 年度 実施状況報告書

非熱平衡状態における表面反応速度論:表面計測法を用いた歪みと速度の同時観察

研究課題

研究課題/領域番号 19K05260
研究機関東北大学

研究代表者

高桑 雄二  東北大学, マイクロシステム融合研究開発センター, 教授 (20154768)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2022-03-31
キーワード光電子分光法 / リアルタイム計測 / 酸化反応キネティクス / 酸化誘起歪み / 熱膨張係数 / Si(001)表面 / Ni(111)表面
研究実績の概要

(1) Si(001)酸化反応において基板温度を急昇温させるだけでなく急冷したとき、X線光電子分光法を用いてSiO2/Si(001)界面の歪みSi原子量とSiO2成長速度を同時計測し、両者の相関から酸化誘起歪み(intrinsic strain)に加えて、SiO2とSiの熱膨張係数の差から生じる熱歪み(extrinsic strain)が酸化反応を支配していることを明らかにした。急昇温では点欠陥発生の熱励起、急冷過程では点欠陥発生が酸化に伴う吸着熱により進行していることを解明した。このような点欠陥がO2解離吸着の活性サイトとして振る舞い、その発生頻度がSiO2成長速度を決定づけていることがわかった。
(2) SiO2/Si(001)界面での酸化過程においてO2圧力の急上昇に伴う歪みSi原子量とSiO2成長速度を同時計測し、両者の相関から点欠陥サイトでのO2解離吸着反応キネティクスを解明した。SiO2/Si界面において4本の未結合手をもつ空孔は二つの反応経路で酸化し、一つは一度のO2解離で全ての未結合手がSi-Oとなり、他はバックボンドへのO原子の潜り込みを伴い二度のO2解離で酸化が完了する。両者の反応経路における酸化反応係数のO2圧力依存から、欠陥サイトでのO2解離吸着の反応メカニズムを明らかにした。
(3) Ni(111)表面に形成したNiO薄膜の還元反応過程について昇温速度への依存をX線光電子分光法で調べ、真空中では昇温速度に依らず還元量は同じであるが、H2雰囲気中では昇温速度に応じて還元速度が増加することを見出した。その原因は急昇温中に還元で生じたNi金属クラスターがH2解離吸着サイトとして機能し、それによって生じたH原子とNiOの反応により還元が促進されるためである。還元生成種としてのH2O脱離を四重極質量分析器で観測して、提案したNiO還元反応モデルを実証した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

(1) 2020年度はコロナの第二波と第三波の流行により実験だけでなく学会・研究会活動が大きな制限を受けたが、SPring-8のBL23SUに設置された表面化学反応解析装置を用いた実験は、緊急事態宣言の合間を縫って2020年7月、2020年10月、2021年2月に遂行できた。しかし、BL23SUのビームラインの後置鏡の不良により光エネルギーだけでなく光強度が不安定になる問題が生じた。そのため、当初予定した実験の半分程度のデータしか得られなかったが、「研究実績の概要」に記した成果を得られた。コロナによる制限が多くある中でもSPring-8でのX線光電子分光法を用いた実験に加えて、東北大多元物質科学研究所に設置された複合表面解析装置を用いて紫外線光電子分光法/四重極質量分析器による実験を有効活用した。
(2) 酸化誘起歪みによる点欠陥発生により出現したSiO2/Si界面の空孔でのO2解離吸着について、O2圧力依存及び基板温度の急昇温・急冷に対する応答から、SiO2/Si界面での酸化反応は空孔の発生だけでなく、空孔でのキャリア捕獲も重要であることが解明できた。
(3) Ni(111)表面酸化によるNiO薄膜形成と、その後のNiO還元から、急昇温過程におけるNiとNiOの熱膨張係数の差から生じる歪みの変化が還元過程を支配していること、さらにはNiO還元でしょうじたNiクラスターがH2雰囲気の中で触媒として機能し、H2O生成・脱離を伴う還元反応が進行することを明らかにできた。

今後の研究の推進方策

(1) SiO2/Si(001)界面での空孔を介した酸化反応におけるキャリア捕獲の役割を解明するために、n型とp型Si(001)基板での酸化反応を比較する。X線光電子分光法により歪みSi原子量、SiO2成長速度、ショットキー障壁高さを一緒にリアルタイム測定する。それらの相関から空孔によるキャリア捕獲の役割を明らかにする。O2のON-OFFだけでなく、XPSのプローブ光をON-OFFすることにより、キャリア捕獲過程を明らかにする。また、SiO2/Si(001)界面でのSiO2成長速度の温度依存から、空孔でのO2解離吸着の二つの反応経路における反応係数の活性化エネルギーを求める。このような酸化反応係数のO2圧力依存と活性化エネルギー、及びキャリア捕獲過程の知見に基づき、SiO2/Si界面の歪み場での酸化反応の物理と化学の統合的理解を図る。
(2) Ni(111)基板に形成したNiO薄膜の還元過程について、急昇温における昇温速度と温度幅の効果を調べ、NiO/Ni(111)界面に生じる熱歪みが引き起こすNiO膜の構造変化と関連付けてNiO還元反応を明らかにする。H2圧力へのNiO還元の依存を調べることにより、NiO/Niクラスター表面でのH2解離/H2O生成・脱離過程を解明する。このようなNi酸化とNiO還元を比較することにより、NiO/Ni界面の歪み場における酸化・還元の物理と化学の統合的理解を図る。
(3) 水吸着Si(001)2×1表面からの脱離反応の急昇温への応答を調べることにより、ダイマー形成による歪みがもたらす表面構造と反応素過程への影響を解明する。

次年度使用額が生じた理由

新型コロナの流行により海外での国際絵画とほとんど中止され、国内での研究会・学会もオンライン開催となり、出張の費用が予定よりも減少したため。2021年度にワクチン注射により状況改善が見込まれるので、出張旅費として次年度へ繰り越すことにした。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2021 2020

すべて 学会発表 (3件) (うち招待講演 3件)

  • [学会発表] Ni(111)表面に形成したNiO膜の還元過程のリアル光電子分光観察2021

    • 著者名/発表者名
      張氷若、小川修一、吉越章隆、高桑雄二
    • 学会等名
      令和2年度 日本表面真空学会東北・北海道支部 学術講演会
    • 招待講演
  • [学会発表] X線光電子分光法の現状と課題2020

    • 著者名/発表者名
      高桑雄二
    • 学会等名
      第56回X線分析討論会
    • 招待講演
  • [学会発表] 点欠陥発生を介したSi酸化反応機構2020

    • 著者名/発表者名
      小川修一、高桑雄二
    • 学会等名
      ナノ学会 ナノ構造・物性―ナノ機能・応用部会合同シンポジウム
    • 招待講演

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公開日: 2021-12-27  

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