研究課題/領域番号 |
19K05261
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
河内 泰三 東京大学, 生産技術研究所, 技術専門職員 (80401280)
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研究分担者 |
三浦 良雄 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 磁性・スピントロニクス材料研究拠点, グループリーダー (10361198)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 磁気相転移 / 磁気異方性 |
研究実績の概要 |
表面界面とバルクの及ぼす効果を評価、酸化鉄Fe3O4(100)単結晶表面及びバルクの磁気異方性との相違を57Fe同位体をプローブとする深さ分解メスバウアー測定法を用いて調べ、実験結果を第一原理計算を用いた理論計算により検証した。結果としてFe3O4(100)単結晶試料表面から深さ20nmの範囲では、面内磁気異方性を室温で示したのに対して、深さ200-350nmの範囲では磁化方向が面内から22-24度傾いていることがメスバウアースペクトル解析によりわかった。この結果により、Fe3O4(100)単結晶試料表面において深さ方向に関して、徐々に面内磁化から面外磁化成分が現れるというノンコリニア磁性を呈していることが判明した。このFe3O4表面近傍のノンコリニア磁性に関して、Fe3O4のバルクの第一原理計算を行って検証した結果、実験結果を再現することを確認することに成功した。更に加えると、深さ200-350nmの範囲であっても、Fe3O4結晶磁気異方性の磁化容易軸である[111]方向の角度35度までには及ばない。これは表面磁気異方性の寄与が200-350nmという深さまで無視できないということを示している。次に、表面から深さ20nmの範囲における磁化の温度依存性をメスバウアー分光法で測定し、磁気相転移の振る舞いを調べた。結果として、磁気相転移温度はバルクと有意な差はなかったのに対し、表面近傍の磁気相転移はバルクである単結晶表面であるにもかかわらず2次元的に振る舞うことが分かった。 薄膜の磁性制御を考える上で、表面界面における磁気異方性や磁気相転移が、同一試料中におけるバルクの磁性と均質に振る舞うか否かは、薄膜の磁性全体を界面の磁性制御により制御するためには重要な情報となる。今回の結果により、界面の磁性制御のみによって薄膜の磁性そのものを容易に制御できる可能性を確認することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
酸化鉄単結晶表面から深さ分解メスバウアー測定及び第一原理計算により、表面磁気異方性が寄与する深さを定量評価することができた。その結果、界面磁性制御により、薄膜全体の磁性制御が可能であることが判明した。一方で、磁気相転移は、バルクとは異なり2次元的な振る舞いをすることがわかった. 成果論文として、T. Kawauchi, et al, Journal of Physics Communications,4,115001,(2020) title:Magnetic structure and phase transition at the surface region of Fe3O4(100)が掲載された。 これにより、次の段階として実際に界面磁性制御による薄膜全体の磁性制御の実験に移行する。
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今後の研究の推進方策 |
圧電基板BaTiO3基板上に界面にFe及びFe3O4をエピタキシァル成長させた試料を準備する。特に、57をFe添加による深さ分解メスバウアー分光法を活用して、界面磁性及び膜中磁性を弁別して抽出するために、56Fe/57Fe/BaTiO3、56Fe/57Fe/56Fe/BaTiO3及び56Fe3O4/57Fe3O4/BaTiO3、56Fe3O4/57Fe3O4/56Fe3O4/BaTiO3の主に4種類の試料を準備する。 基板の圧電効果に伴う薄膜の結晶歪みをX線回折装置を用いて、面内回折も含めて観測し面内、層間格子定数の変化を観測する。 薄膜磁性反転制御を観測するために、今回は物理物性測定システムを用いてホール抵抗を測定することにより、薄膜磁性反転を確認する。 メスバウアー分光装置の線源が減衰しており、短時間で試料測定が可能となるように、励起線源57Coを新規購入して内部転換電子メスバウアー測定を圧電基板にバイアスをかけた状態でのその場観察で界面、膜中の磁性制御及び、界面におけるFeの荷電状態の変化も観察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
メスバウアー分光装置の57Co線源を購入予定していたが、当該装置を設置していた東京都目黒区東京大学駒場リサーチキャンパス内の同位体室閉鎖に伴い、メスバウアー分光装置を東京都文京区本郷の東京大学アイソトープ総合センターに移設する作業が必要となり、線源を購入する時期を次年度にシフトせざるを得なくなってしまった為。 本年度は、移設後に、57Co線源を購入し、試料基板及び蒸着材料としての57Fe,56Fe富化同位体を追加購入して、試料作成からメスバウアー測定を行う。 論文掲載費用も生じる見込みである。
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