本研究では水晶振動子マイクロバランス(QCM)法および微小角入射X線回折(GIXD)のその場同時測定により有機半導体薄膜形成初期における構造形成過程を明らかにすることを目的としている。初年度においてペンタセンのQCM-GIXD同時測定に成功し、安定核形成前の準安定状態の存在を支持する結果が得られた。さらに2年目にはGIXD測定は行えなかったものの、アルキル修飾クオーターチオフェンに関して実験室でのQCM単独測定によりアルキル鎖の効果を確認することができた。 最終年度となる2021年度もGIXD測定を行うことはできなかったが、前年度までの結果を受けて、有機半導体薄膜成長に対するアルキル鎖の影響を調査するための実験を行った。具体的にはモデル分子としてn-アルカンを用い、鎖長の異なるn-アルカン(テトラテトラコンタン(TTC、C44H90)、オクタコサン(C28H58)、エイコサン(C20H44))の薄膜成長過程についてQCM測定を行った。 TTCの薄膜成長では、ペンタセンと同様に核形成前に準安定なクラスターが形成されることを存在を示唆する結果が得られた。一方で鎖長の短いエイコサンでは準安定クラスターの形成は確認されなかった。鎖長が長いほど分子間相互作用が強くなることから、分子間相互作用の強さが準安定状態の形成に寄与していることが示唆された。次に、核形成後の薄膜成長様式に注目するとエイコサンでは基板温度に依存して少なくとも4パターンの成長様式が確認されたのに対しTTCでは確認されなかった。両者の間の鎖長を持つオクタコサンではエイコサンより1つ少ない3パターンの成長様式が確認された。このことから鎖長が短くなるにつれて、分子-分子間相互作用が弱くなり分子-基板間相互作用の影響が相対的に無視できなくなってくるために成長条件によって多様な成長様式を取るようになることが示唆された。
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