研究実績の概要 |
ナノメートルオーダーに薄膜化させた酸化物強誘電体を金属に接合させた系では,電子トンネリングにより電気伝導性が発現する (Nat. Mater. 12, 602 (2013))。その時強誘電体薄膜の電気抵抗は,電気分極の方向違いで4桁変化することが報告されている(Nat. Mater. 12, 617 (2013))。分極方向に応じて伝導帯が傾斜するため,伝導帯にいる電子は傾斜を感じて移動することができる。強誘電体は典型的な絶縁体ではなく,電気分極により傾斜したバンド構造を有するため整流性が制御可能な極性半導体としての理解が可能である。しかし,肝心のバンド傾斜が未知であっためエネルギー準位図を正確に捉えることができず,強誘電体の膜厚や接合させる半導体のキャリア濃度を細かく変化させながらと,これまでは半ばコンビナトルなデバイス設計を行っていくしかないのが現状であった(Nat. Commun. 8, 15217 (2017))。 申請者は研究目標で掲げた実験を遂行し,放射光硬X線を用いた角度分解光電子分光実験を行うことにより,未知であった傾斜したバンド構造を観測することに成功した(Sci. Rep. 10, 10702 (2020),SPring-8プレスリリース2020/7/3付)。これにより,強誘電性の起源となる電気分極の成り立ちについて,フォノンと電子構造の双方から議論が可能となり,新たな誘電体学理への道を切り開いた。なお,本研究は仏のグループとの共同研究により加速進展したため,R3年度国際共同研究強化(A)に申請し採択された.
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