研究課題/領域番号 |
19K05277
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研究機関 | 大同大学 |
研究代表者 |
堀尾 吉已 大同大学, 工学部, 教授 (00238792)
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研究分担者 |
中原 仁 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (20293649)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 反射高速電子回折 / 中速電子回折 / 波動場 / オージェ電子 / 表面プラズモン |
研究実績の概要 |
当該年度は回折電子のエネルギー損失スペクトルの新たな計測法を完成させた。これは回折電子を真空内で直接チャンネルトロンを用いて計測する従来の方法と異なり、蛍光スクリーン上に映る回折斑点の光強度をレンズ系と光ファイバーで検出し、光電子増倍管で電気信号に変換する手法である。それに続くロックインアンプを用いた2倍高調波の検出は従来と同様である。この新たな計測手法の検証を行なうため、Si(111)7x7清浄表面を用いて計測したところ、従来のチャンネルトロンを用いた計測法で得られたエネルギー損失スペクトルとほぼ一致する結果が得られ、計測法の信頼性が確認された。 これに伴い、新たなスペクトル解析ソフトを開発した。これは複数の測定データを自動でエネルギーの規格化や平均化処理を行なってエネルギー損失スペクトルを求めた後、スペクトルに現れるピーク群を自動でガウス分解し、各次のプラズモン損失ピーク強度をポアソン分布にフィッティングすることで表面及びバルクのプラズモン平均励起回数を算出するものである。 また、エネルギーフィルターされた回折図形に対し、阻止電圧を変化させながらCCDカメラで撮影した数多くの画像データを取得した後、それらの強度の差分を取ることで任意の注目する回折斑点のエネルギー損失スペクトルを自動抽出するプログラムソフトも開発した。しかしながらこの手法では、ロックインアンプを使用しないためノイズが無視できない程度存在する。 並行して、Ge(111)表面上の銀薄膜の形成とその後のスパッタ・アニールによるゲルマネン2次元結晶の形成を試みたが、アニール温度に問題があるためか成功に至っていない。そこで次年度は研究協力者の柚原先生から直接ゲルマネン結晶試料を提供していただき実験を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ渦のため本務の授業が遠隔となり、そのための資料作りや環境整備に多くの研究時間が割かれ、また研究協力者との打ち合わせや学会発表にも支障をきたした。このような状況が研究活動を停滞させ、研究の進捗状況を遅らせた主たる要因である。 このような厳しい研究環境下ではあったが、回折斑点の光強度を用いた新たなエネルギー損失スペクトル計測システムを完成させ、Si(111)7x7表面を用いてその有用性を検証した。入射電子エネルギーは10keV、[11-2]入射方位で視射角を3.8°と2.7°で測定した結果、そのスペクトルのプロファイルは過去にチャンネルトロンを用いて測定した結果に酷似していることから新しい測定システムの信頼性が確認された。 過去に測定した表面プラズモンの平均励起回数の視射角依存性において、視射角4°付近で特異な増大が観測された。これを検証すべく新測定システムを用いて視射角を細かく変化させてエネルギー損失スペクトルを測定したところ異常増大が存在することが再確認された。この異常増大は、視射角は3.8°の表面波共鳴条件から少し高角側にシフトした4.1°付近で生じ、むしろ444ブラッグ反射に相当することがわかった。この現象は過去に報告がなく重要な発見であるため学術論文に報告したいと考えている。 一方、エネルギーフィルターの阻止電圧を変えながらCCDカメラで撮影した多くの回折図形の画像データの各画素の強度を自動で差分を取り任意の点のエネルギー損失スペクトルを取得するプログラムソフトも開発した。 ゲルマネン結晶の作成過程として、Ge(111)単結晶基板表面上にAg薄膜を室温で100nm程度真空蒸着したところ、極めて結晶性のよいAg(111)単結晶薄膜が得られた。この薄膜形成にはGe(111)基板表面の前処理である化学洗浄が重要なポイントであることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
新測定システムを用いて興味深いデータが得られたため、続けてSi(111)7x7表面に対して入射条件や回折斑点を変えてエネルギー損失スペクトルの測定を行い、プラズマ平均励起回数の異常増大の要因を探る。同様のエネルギー損失スペクトルの測定をSi(111)√3x√3-Ag表面や研究協力者の柚原先生に作成していただいたゲルマネンや銀薄膜に対しても行なう予定である。 上記試料に対して入射電子エネルギーを低下させた条件でロッキング曲線とオージェ電子強度の視射角変化(BRAES)プロファイルを測定する予定である。 上記試料表面に対するロッキング曲線及び入射電子波動場の動力学的計算を行い、表面構造モデルの妥当性を評価した上で波動場とオージェ強度及びプラズモン励起との相関性を検討する。 このような実験研究が研究期間内に達成できない場合は、試料を絞って研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
6万円程度の未使用金額が生じた。これはコロナ禍により学会出張が全て中止となったことによる。当該金額は翌年度分として請求した助成金と合わせて実験に使用する消耗品や実験データ収集用メディア及び解析ソフト等の購入に充てる。
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