容易に特性劣化する銀表面に化学的に安定な原子層であるグラフェンを保護膜として形成し、表面プラズモンバイオセンサの最適材料として提供することを本研究の目的とし、成長によってグラフェンで銀表面を一様に覆う構造の実現を目指している。ここで、代表的な大面積グラフェン製造方法である化学的気相成長(CVD)法では、銀表面が不活性であるため成長できないと考えられていた。そのため、本研究では表面での成長材料分解を期待しない方法として、材料ガスを分解して基板へ供給する2ゾーンCVD成長法と、非晶質炭素膜を予め銀表面に形成する固相成長法の2つについて当初検討を進めた。 具体的には、この計画に基づく実験を進めるため、2つの管状電気炉で構成するCVD装置を製作・立ち上げ後、上述の2つの成長法に着手した。その結果、前者では材料分解ゾーン温度1000℃まで試みたがその効果は確認できなかった。また、後者では非晶質からグラフェンへの構造変化は観測できず、さらに高温とすると炭素原子が銀表面から消失してしまい、提案する方法では成長が期待できないことが判明した。 そこで、従来型CVD成長実験で極少量の非晶質炭素膜が形成できたことに着目した。これは低触媒能ではなく非常に高い銀の蒸気圧が炭素原子の付着確率を極度に低下させた結果と解釈し、銅基板を用いる場合よりも圧力を高めて成長実験を行った。その結果、sp2結合のみで形成された1原子層を超える非晶質グラファイトを形成でき、銀表面で分解反応が起きないという推定を覆した。そのため、低真空条件で成長温度,冷却速度,材料ガス流量の条件最適化を進め、結晶化したグラファイト薄膜を成長することに成功した。以上により、銀基板でCVD成長における阻害要因は、銀表面の低触媒能ではなく、高い蒸気圧であることが判明し、CVD成長による銀表面上への高品質グラフェン成長の可能性を示すことができた。
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