薄膜デバイスにおける機能性や劣化等のメカニズムを理解するには、機能性を担う物質の電子状態を実動作環境下で分析すること(オペランド計測)が有効である。探査深度が数μmの「テンダーX線」をプローブとするX線発光分光技術は、電極等で覆われた「埋もれた層」であってもオペランド計測に有用である。我が国では高輝度なテンダーX線を供給できる新しい放射光施設がまさに建設中ということもあり、テンダーX線発光分光技術に対する期待が高まっている。本研究では、1~4 keVの発光X線を波長掃引(入射角や検出器の駆動走査)することなく同時計測できるX線分光器を開発し、薄膜デバイスにおける埋もれた層の組成比、濃度、化学結合状態の時間変化を同時に捉えるオペランド電子状態分析技術を確立することを目指した。 今年度は、1~4 keVを同時計測できるMonk-Gillieson型分光器の設計手法の最適化を図った。具体的には、分光光学系の入射角、不等刻線溝パラメータ等をエネルギー分解能(@4 keV)の関数として明らかにした。この結果を受け最適化した非周期Ni/C多層膜鏡をイオンビームスパッタ法で成膜し、その膜構造が設計どおりであることをCu-Kα線を用いた反射率測定で確かめた。また、高エネルギー加速器研究機構(放射光実験施設Photon Factory)の二結晶分光器ビームライン(BL-11B)において分光反射率測定を実施し、BL-11Bで測定可能な2.1~4.0 keVにおける非周期Ni/C多層膜鏡の反射率がシミュレーション結果とほぼ一致することを確認した。 残念ながら、本研究では分光器の心臓部である不等刻線間隔回折格子の製作までは実施できず、最終目標の達成には至らなかった。しかし、テンダーX線分光器に必要な要素技術で、光学素子の反射率を高効率化するための非周期多層膜の有用性を明らかにすることができた。
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