研究課題/領域番号 |
19K05286
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
四方 潤一 日本大学, 工学部, 准教授 (50302237)
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研究分担者 |
時実 悠 徳島大学, ポストLEDフォトニクス研究所, 特任助教 (80648931)
南出 泰亜 国立研究開発法人理化学研究所, 光量子工学研究センター, チームリーダー (10322687)
池田 正則 日本大学, 工学部, 教授 (10222902)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | テラヘルツ波 / 表面プラズモン共振器 / 二重共鳴構造 / 超高解像 / イメージング |
研究実績の概要 |
前年度で広帯域動作を明らかにした自己補対型対数周期テラヘルツ帯表面プラズモン共振器(THz-BE)の動作解析を進め、本年度は本課題で必須となる微細THz波ビーム放射を有限要素解析により調査した。その結果、1.5~3THz付近で共鳴と微細ビーム放射が顕著になる知見が得られた。さらに局所電磁場を増強するボウタイ型開口についても検討を進め、これまで実験結果で得られている透過率増強(数倍程度)を確かめるとともに、自己補対型対数周期のTHz-BE構造でも大幅な透過率増強が起こり、特に抑制されていた周波数領域での増強が著しいことを明らかにした。本年度はコロナ禍による出張制限のため外部施設を利用してのTHz-BEデバイス製作が困難となったため、11月に所属機関に新規導入された電子線描画装置を用いてパターン形成に着手し、約1ミクロン精度のパターン形成が可能となり、THz-BEデバイスに必要な加工精度が得られることが分かった。また、THzイメージング用の測定試料準備のためAl/Si/SiO2構造を作製し,金属誘起結晶化による多結晶Si薄膜成長過程の構造変化を顕微鏡及びX線光電子分光より調べた。一方、THz-BE構造を用いた三次元計測のため、THz-BE素子のホルダーに自動ステージを追加してTHz波入射角をコンピューター上で0.1度刻みで調整可能な測定系とした。光注入型THzパラメトリック光源を用いて1.2~2.0 THzの範囲で透過スペクトルの入射角度依存性を詳細に測定し、妥当な実験結果が得られることを確かめた。またシリコン(Si)が近赤外光を透過し、屈折率もTHz帯に近い性質に着目し、近赤外半導体レーザを用いて模擬試料(Si基板で遮蔽された金属パターン)のイメージング実験を行い、THz-OCT計測に必要な内部構造測定における光学調整について基礎的な知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本課題の2年目である令和2年度の研究計画では、(1)広帯域動作のTHz-BE構造製作に向けたデバイス設計の基盤を確立(2)THz-BE構造およびTHz波計測用の半導体微細構造の試作開始とTHz-BEの動作実験(3)半導体微細構造のTHz-OCT測定に向けた光学実験系の動作精密化と半導体内部可視化の予備実験を主な計画とした。(1)については、上記のように自己補対型THz-BE構造の電磁場解析を実施し、所望の広帯域なTHz周波数において、広帯域なTHz透過スペクトルだけでなくイメージングに不可欠な微細ビームが得られる周波数帯を明らかし、さらに性能を向上させる開口での局所電磁場増強に関わる新知見を得ることにより、試作するTHz-BE構造について設計基盤を得た。(2)については、THz波計測用の試料としてAl/Si/SiO2構造の作製を行い、加熱温度による構造変化の知見を得た。またTHz-BEデバイス作製のため電子線描画に着手して動作確認を終えたが、試作第一号となるTHz-BEデバイスの完成と動作実験は次年度の課題である。(3)についてはTHz-BEの透過スペクトル実験系において入射角の制御機構を整備し、入射角の垂直入射を正確に決定でき、0.1度刻みの精密な角度調整が可能となった。このシステムを用いて透過スペクトルの角度依存性を測定し、これまで得られた実験結果と矛盾しない測定値が得られ、その安定性が確かめられた。また実験結果を検討するため、ブルズアイの凹凸を一次元散乱体とみなす解析的なモデルを構築し、実験結果と定性的な一致を見た。さらに近赤外光を用いた半導体試料の予備的な内部イメージング実験を行い、THz-OCT計測の光学実験に関わる基礎知見を得た。以上から、本年度の計画の多くは順調に進展したが、デバイス製作とその動作実験についてはやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、(1)広帯域動作のTHz-BE構造製作に向けたデバイス設計の基盤確立(3)光学実験系の動作精密化と半導体内部可視化の予備実験については、ほぼ予定通り進展した。今後の研究内容として、この状況下で推進に様々な困難が伴う(2)THz-BE構造および半導体微細構造の試作とTHz-BEの動作実験を有効に進めていくことが重要課題である。まずTHz-BEデバイスの試作においては、所属機関で起動し始めた施設を有効に利用して、微細加工を中心とする研究を進めていく予定である。具体的には、研究代表者・分担者の連携のもとでデバイス作製に携わる学生の人員も増員し、形状最適化のための条件(露光条件)を見出す研究を加速していく。得られたTHz-BEの基盤をなす凹凸形状に金属薄膜を付与し、THz-BEデバイスの完成を目指す。さらに、各々の機関で有する周波数可変THz波光源を用いて作製したデバイスの透過スペクトルやビーム伝搬等の基礎特性を実験的に調査し、電磁場解析結果と比較から得られた知見を設計にフィードバックしてデバイス設計の最適化を進めていく予定である。上記のようにTHz波光学系においてはTHz-BEデバイスに入射するTHz波の入射角度パラメーターを精密に調整可能となり、今後は実験結果とモデルの整合性を調査して実験及びモデルの改良を行い、現象の理解を進めていくことによりデバイス設計の最適化が進展するものと考えており、得られた知見をもとにOCT測定系についても最適化を進めていく。一方、本年度に引き続きTHzイメージング測定試料としてAl/Si/SiO2構造を作製し、Si結晶化過程における深さ方向構造変化、Al-Si固溶体、Si核形成、結晶化過程について他分析手法結果と合わせて、THz波を用いた評価方法の有用性を実験的に調査していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用が生じたのは、研究代表者(四方)においては当初予定していた学会参加や研究打合せのための出張旅費に関連するものであるが全体的な割合は低く、中心的課題であるTHz-BEデバイスの設計に関連したソフトウェアの保守継続費用や成果発表のための英文校正や論文掲載料、さらに2月に突如として起こった地震に対する対策としての耐震用マット等に有効活用できている。上記のように今後、本課題で中心的なデバイス製作や動作の実験的調査に注力していく予定であるため、この次年度使用額は主に製作に必要な消耗品購入や光学測定に必要な光学部品等の消耗品の購入に有効活用していく。一方、研究分担者(池田)において次年度使用が生じたのは、実験に必要な消耗品購入において価格変動等に伴う少額の残額が出たためであり、これは本年度の予算全体に比しての割合は極めて小さく、本年度の研究遂行において本質的な影響は出ていない。この少額の次年度使用分はデバイス作製に有効に活用していく予定である。また研究分担者(時実)については、研究の推進に必要な情報収集のための学会年会費、学会参加費、及び実験、計算に必要な機器の整備のため3月中に使用済みであるが、機関の処理が4月となるため次年度の支払いに計上される予定であり、本課題の研究推進のために有効に活用できている。
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