研究課題/領域番号 |
19K05291
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
奥津 哲夫 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (20261860)
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研究分担者 |
堀内 宏明 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (00334136)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 金ナノ構造 / 表面プラズモン共鳴 / 膜タンパク質 / 結晶化 / バクテリオロドプシン / 光誘起結晶化 |
研究実績の概要 |
膜タンパク質としてバクテリオロドプシンを用いて、金ナノ構造を用いた光誘起結晶化実験を行った。バクテリオロドプシンは研究室で発現した。金ナノ構造は金イオンスパッタ装置を用い5nmの膜厚になるよう設定して作成した。ガラス基板の吸収・散乱スペクトルを測定し、金ナノ粒子のギャップ構造によるプラズモン共鳴が生じることを確認した。金ナノ構造を構築したガラス基板を用いてLCP-サンドイッチプレートを作成し、膜タンパク質の結晶化実験を行った。光は640nmの直線偏光を用いた。 金なし/光なしのコントロールでは4つのウェル中1ウェルで結晶が出現したが、金あり/光ありの条件では4個のウェルの2個で結晶が出現した。光を当てたウェルでは結晶数が多かった。塩濃度を2.0, 2.4, 2.7 Mの三種類用いて結晶化実験を行った。最も塩濃度が低い条件では、金なし/光なしのコントロール、金あり/光ありの条件とも結晶は出現しなかった。2.4,2.7Mの時には、コントロールよりも金あり/光ありで出現した結晶のサイズが大きくなり数も多くなった。 コントロールでは28日経過しても結晶が出現しなかったが、金あり/光なしで28日経過後に結晶が出現した。金あり/光ありでは14日後に結晶が出現した。このことから、金ナノ構造と光照射の組み合わせにより結晶化が誘起されることを確認した。 水溶性タンパク質の実験で、金ナノ構造にタンパク質が吸着すること、光照射によりさらに吸着量が増加することを確認している。金ナノ構造のギャップにタンパク質が濃縮されここで結晶化が始まると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膜タンパク質を積極的に結晶化する研究はほとんど例がなく、チャレンジングな試みである。我々は今までに入手可能な水溶性タンパク質を購入し実験してきたが、膜タンパク質は売っているものがなく、自分で発現して実験することから始めるしかない。最初にタンパク質の発現という問題をクリヤすることが第一歩だが、これを乗り越えることができたので順調といえる。しかしながら、発現実験の際に学科共通で使っている遠心分離機が何度もトラブルを起こし、その都度実験がストップしてしまうなどの問題に向き合う必要があった。 次に結晶化実験について述べる。水溶性タンパク質の結晶化に関しては、主にリゾチームを用いて結晶化の物理化学的な観点による研究が行われてきた。一方膜タンパク質の結晶化実験は、「結晶を出す」だけに留まる実験の段階で、物理化学的に結晶化を議論した例がない。このような現状で、金ナノ構造と光照射による膜タンパク質の結晶化誘起効果を定量的に議論するのは困難であると思われたが、幸運にも金ナノ構造と光照射による効果が明確に異なる結果を得ることができた。 タンパク質の発現実験に半年を要することから、この実験は2年間に2回しか行うことができない。2回ともポジティブな結果が得られたことから概ね順調であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
実験は二度の再現性をとることができたので、信頼できるものとする。今後はこの分野の研究動向を調査し、論文執筆にとりかかる。 また、この現象がなぜ起こるのかについての機構の解明を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で学会出張がなかった。そのため出張費の支出がなく、当初予定していた予算を使い切ることができなかった。余った予算は次年度の実験費用として使用する。
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