研究課題/領域番号 |
19K05292
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上野 耕平 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (90741223)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 窒化アルミニウム / スパッタリング / トランジスタ / 結晶成長 |
研究実績の概要 |
本研究では、高温・放射線環境下において動作可能な超高耐圧エレクトロニクス構築にむけてUltra-Wide Bandgap材料である窒化アルミニウム(AlN)の新規結晶成長手法およびデバイスプロセスの要素技術開発を行う。 本年度は、前年度に構築した深紫外線照射光学系を備えたパルススパッタ堆積装置を用いて高品質AlN結晶成長に取り組み、深紫外線・高エネルギー粒子照射による擬フェルミレベル制御をもとにした補償型欠陥制御の可能性について検討を行った。 初期検討として、本手法を用いてサファイア基板上に形成したn型AlN結晶の電子物性を評価したところ、室温の電子移動度が141 cm2/Vsと高い値が得られることが分かった。これは結晶成長中に深紫外線照射を行ったことで不純物やAl空孔型欠陥等の電子散乱中心が減少したためと考えている。本結果は電子デバイスグレードの高品質AlN結晶成長には深紫外線・高エネルギー粒子照射による擬フェルミレベル制御が有望であることを示している。 これらの結果をもとにパルススパッタ堆積法を用いてAlN/AlGaNヘテロ構造を作製し高電子移動度トランジスタ(HEMT)への展開を行った。AlN/AlGaNヘテロ界面には分極差に起因した2次元電子ガスが生成しており、理論値に近い高密度の電子チャネル層が得られることが分かった。このようなAlN/AlGaNヘテロ構造に対して電極形成、素子分離プロセスを実施したところ、良好なトランジスタ動作を実証した。更なる素子の高性能化に向けて、2次元電子ガスに対するコンタクト抵抗の低減や素子の高耐圧化に必要な要素技術の開発を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度では、深紫外線照射光学系を備えたスパッタ装置を用いたAlNおよびAlGaN混晶の結晶成長実験を実施し、電子デバイスグレードのAlN結晶が得られることを実証した。 一般に結晶品質の指標の一つとして電子移動度が挙げられるが、本手法により形成したn型AlN結晶では研究計画時の目標値(100 cm2/Vs)を上回る高い値が得られ、当初の計画以上の成果が得られた。これはAlN結晶のようなUltra-Wide Bandgap材料では、擬フェルミレベル制御をもとにした補償型欠陥制御の効果が大きいものと考えられ、本手法の今後の展開が期待される成果といえる。 さらに本手法を用いてAlN/AlGaNヘテロ構造を作製し、ヘテロ界面に形成された2次元電子ガスを用いた高移動度電子トランジスタの動作を実証した。これはUltra-Wide Bandgap材料である超高耐圧エレクトロニクス構築の基礎となる技術の一つである。更なる素子の高性能化に向けて、デバイスプロセスの要素技術を開発する下地が整ったといえる。このように計画時の目標を達成でき、さらに最終年度につながる成果が得られていることから、当初の計画以上の進展が得られていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までに作製したn型AlN結晶やAlN/AlGaNヘテロ界面の電子輸送特性を詳細に解析し、素子の高性能化への指針を得ることで、結晶成長およびデバイスプロセスへのフィードバックを行う。特に、2次元電子ガスのシート抵抗、電子移動度を向上させるために、混晶組成や膜厚、界面粗さ等の構造パラメータの最適化を行う。さらに結晶成長実験と並行して擬フェルミレベル制御をもとにした欠陥制御メカニズムを解明するための知見の蓄積を図り、理論的検討を加える。 またデバイスプロセスの要素技術として、2次元電子ガスに対するオーミックコンタクトの低抵抗化を行う。具体的には、スパッタ法を用いた高濃度度n型添加窒化物半導体再成長コンタクトの形成を行いトランジスタ素子の低抵抗化を狙う。またそれと並行して、トランジスタ素子の高耐圧化に向けて絶縁膜形成技術の開発を実施する。 さらに作製したトランジスタ素子の高温素子特性や耐環境性能、絶縁破壊特性を評価し、本材料系の応用可能性を検証する。 研究が計画以上に進展した場合には、トランジスタ素子のスケーリング、高周波特性についても検討を実施する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
調達方法の工夫などにより、当初計画より経費の使用が節約できたことにより生じた未使用額
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