研究課題/領域番号 |
19K05298
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
佐々木 拓生 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 放射光科学研究センター, 主幹研究員(定常) (90586190)
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研究分担者 |
日比野 浩樹 関西学院大学, 理工学部, 教授 (60393740)
山口 智広 工学院大学, 先進工学部, 准教授 (50454517)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 窒化ガリウム / グラフェン / 分子線エピタキシー |
研究実績の概要 |
低消費電力の発光デバイス材料として期待されている窒化インジウムガリウム(InGaN)は、異種基板との格子不整合に由来する転位の発生による、結晶性の劣化が課題である。そこで、二次元薄膜材料であるグラフェン上に高品質なInGaN薄膜を成長できれば、InGaN薄膜を異種基板から剥離することが可能であり、それによって転位の発生を抑制した高品質な自立基板を作製できる可能性がある。2020年度は、グラフェン上にInを含まないGaN薄膜の成長機構を検討した。実験はグラフェンを転写したSiO2/Si基板上にAlNバッファ層がある時とない時でGaNの成長機構にどのような影響があるのか、放射光その場X線回折によって検討した。その結果、AlNバッファ層がない時は成長初期からGaN本来の格子間隔で成長することが確認され、GaNとグラフェンは弱い相互作用を示すことが分かった。一方、AlNバッファ層がある時は、GaNはAlNの格子に歪み、成長が進むにつれてGaN本来の格子間隔に変化することが分かった。このことから、GaNはAlNを核として成長が進行することが明らかになった。さらに、AlNバッファ層がある方が、GaNの構造多形が抑制され、さらに、GaNの面内配向性も向上することが分かった。次に、放射光その場X線回折によって、グラフェン上のInGaN薄膜の成長機構を検討した。AlNバッファ層がある時はInGaN薄膜の成長時間の増加とともに回折強度が増加したため、AlN上にInGaN薄膜が成長していることを確認した。一方で、AlNバッファ層がないときは、回折ピークが現れなかったことから、AlNバッファ層がInGaN薄膜の成長に有効に働いていることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は当初の予定どおり、放射光その場X線回折により、AlNバッファ層の有無がGaN薄膜およびInGaN薄膜の品質や配向性にどのような影響があるか調べることができた。したがって、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ひきつづき、放射光その場X線回折によって、グラフェン上におけるInGaN薄膜成長機構の解明を目指す。2020年度では、AlNバッファ層を導入することで、グラフェン上にある程度配向したInGaN薄膜成長を実現したが、成長後の試料をラマン測定した結果、グラフェンの構造が部分的に壊れていることもわかった。このことから、今後はInGaN薄膜成長の条件(特に成長温度とRFプラズマソースの出力)を最適化し、グラフェン全体の構造を維持しつつ、より配向性の高いInGaN薄膜の成長を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は新型コロナウイルスの影響で、SPring-8での放射光実験や結晶成長実験ができない期間があった。そのため、実験に使用する予定であった高圧ガスや試料基板、試薬等を購入することができなかった。2021年度は前年度に使用しなかった予算も併せて計上することで、窒化物薄膜の放射光実験および成長実験を予定より多く実施することが可能になり、研究成果の創出に効果的と考える。
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