研究課題/領域番号 |
19K05301
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
戸倉川 正樹 電気通信大学, レーザー新世代研究センター, 准教授 (80728246)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 波長2μm帯短パルスレーザー / 加工光源 |
研究実績の概要 |
波長2μm帯短パルスレーザー光によるポリマー材料やシリコン材料の加工応用のための光源開発を進めている。特に(i)非熱3次元加工を想定したピコ秒~フェムト秒領域、(ii)熱加工を想定したナノ秒領域、これら二つのパルス幅領域において高エネルギーパルスTmファイバー発振器の開発を行っている。また光源を開発するだけではなく、(iii)それらを用いた加工特性を調べるためレーザー加工実験を行う。
(i)においては偏波保持型のダブルクラッドフッ化物ファイバーを用いた、Mamyshve発振器によってサブ100fs、100nJ出力を実現する。Mamyshve発振器は共振器内に透過帯域の異なる2種のフィルターを有し、連続発振を抑制し超短パルス発振のみが許される状態をつくりだす。これと全正常分散超短パルスレーザーを組み合わせることによって、波長1~1.5μm帯においては100nJから1μJという従来光源と比べて二けた以上高いパルスエネルギーの実現がなされているが、波長2μm帯ではいまだ実現されていない。 (ii)においては音響光変調器(AOM)の1次回折光を用いた、繰り返し周波数可変の高パルスエネルギーQスイッチファイバーレーザーを実現する。0次光ではなく1次光を用いることによってより寄生発振を抑制することを可能とし、かつ縦モードフリーのレーザー動作を可能とする。このような光源は加工応用のみならず、超広帯域白色光発生などへの応用も考えられる。 (iii)においては、これら光源を用いた加工応用を実践する。そのため3次元の駆動ステージによる制御の下、分解能100μm以下でその場観測が可能な加工光学系を開発する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(i)非熱3次元加工を想定したピコ秒~フェムト秒領域のレーザー開発では、現在までにTm添加フッ化物ファイバーを用いた全正常分散モード同期発振器によって約1nJの1ps-100fsのパルス発生に成功している。これを全正常分散型のMamyshve発振器へと改良する。改良にあたり偏波保持型のTm添加フッ化物ファイバーを用いるが、このようなファイバーは世の中に存在していなかった。我々は線引きの過程で偶然コアが楕円形状となってしまったファイバーが偏波保持特性を有していることに着目し、条件にあったファイバーを見つけ出し、793nmのマルチモードLD励起を用いた直線型共振器において連続発振動作を確認している。
(ii)熱加工を想定したナノ秒領域のレーザー開発では、4Wという低出力マルチモードLD励起のもと、音響光学変調器の一次回折光を持ちいて、繰り返し周波数1-100kHz、最大パルスエネルギー100μJ以上、最短パルス幅サブ2nsのパルス発振を実現した。これは波長2μm帯のQスイッチファイバーレーザーにおける最短パルスの発生であり、一般的な値と比べて1桁以上短くなっている。また発振器内での超広帯域白色光の発生も確認されている。同様の現象がAOMを用いない波長1μm帯レーザーで報告されており、共振器内でラマン散乱やブリルアン散乱が発生し、非線形なフィードバックやスペクトル拡大が発生していると推測されている。本研究の違い、利点として、AOMを用いることによってパルスの繰り返し周波数制御を容易にしている点があげられる。
(iii)レーザー加工実験においては、その場観測が可能な加工光学システムの構築を目指し、現在まで3次元ステージを除くに主要な光学部品を購入し、仮組をすすめている。また加工対象材料として数種のポリマー、フィルム、シリコン基板を準備している。
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今後の研究の推進方策 |
(i)非熱3次元加工を想定したピコ秒~フェムト秒領域のレーザー開発では、現在の線形型共振器をリング型共振器へと変更し、利得ファイバーも2本を用い、各利得ファイバーの前に回折格子による波長選択素子(フィルター)を挿入しMamyshev発振器の構成とする。まずは連続発振動作を行い、その後に波長フィルターの調整し超短パルス発振を実現させる。また並行してどこまで高パルスエネルギーでのレーザー動作が可能であるかを現実のファイバーパラメータなどを利用してシミュレーションにより明らかにする。
(ii)熱加工を想定したナノ秒領域のレーザー開発では、出力側ファイバー端面の破壊によってこれ以上のパルスエネルギー増加が妨げられている。これをなくすためレーザーの取り出し側に低反射率のファイバーブラッググレーティングを用い、その端面にはエンドキャップと呼ばれる、実効的なコア面積を拡大し光密度を低下させ非破壊閾値をあげる処理をおこなう。これによって数百μJの出力を実現させる。また将来的にはさらに大口径ファイバーによる増幅器を後段に取り付けることによってmJレベルの出力を目指す。
(iii)レーザー加工実験では、まずは開発したナノ秒レーザーを組み込み、ポリマー材料の加工が可能であるかを確認する。その後パルスエネルギー、繰り返し周波数、平均出力、集光系などを変化させたときに加工痕にどのような違いがでるかを調べる。次にps~fsレーザーとナノ秒レーザーを用いてシリコン材料の加工においてどのような差が出るのかを調べる。
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