研究課題/領域番号 |
19K05304
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
宮丸 文章 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (20419005)
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研究分担者 |
中西 俊博 京都大学, 工学研究科, 講師 (30362461)
Dani Keshav 沖縄科学技術大学院大学, フェムト秒分光法ユニット, 准教授 (80630946)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | テラヘルツ波 / 周波数変換 |
研究実績の概要 |
本研究では,時間に関する並進対称性を破ることによってテラヘルツ波の周波数を変換する方法を提案し,その実証実験を行うことを目的としています。昨年度において,ヒ化ガリウムを用いて厚さが0.1mm,幅1.0mm,長さ1.5mmの導波路を作製し,その導波路内にテラヘルツ波を伝搬させる実験を行いました。テラヘルツパルスが導波路内部を伝搬しているときに外部からフェムト秒パルスレーザーを導波路表面に照射することにより,導波路の伝搬モードを変化させ,その結果テラヘルツパルスの周波数が高周波数側にシフトすることを実験的に確認しました。 本年度では,ヒ化ガリウム導波路の長さを2.5mmまで長くしたものを作製し,同様の実験を行いました。これにより,導波路を直接透過してきたテラヘルツパルスと,導波路内部で多重反射するテラヘルツパルスを時間軸上で分離することができ,より明確にテラヘルツパルスの周波数変換を観測することができました。さらに,同様の周波数変換実験において,導波路に照射するフェムト秒パルスレーザーの光強度依存性も測定しました。 また本年度において,このような半導体導波路を用いた電磁波の周波数変換を理論的に考察するため,準解析的な理論の構築を行いました。この理論を用いることによって,入射電磁波のエネルギーの何割が周波数変換された電磁波に移行するかという変換効率を計算することができます。さらに興味深いことに,周波数変換が行われた直後から,導波路の表面に局在する直流磁場成分が存在する解が得られました。この直流磁場成分は,有限要素法を用いた電磁界シミュレーションにおいても確認されました。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
時間に関する並進対称性を破ることによってテラヘルツ波の周波数を変換するという目的に対し,本年度では,より長い導波路を用いることによって導波路内部で多重反射するテラヘルツパルスを時間軸上で分離することができ,その結果より明確なテラヘルツパルスの周波数変換を確認することができました。また半導体導波路を用いた電磁波の周波数変換に関する準解析的な理論の構築も行い,変換効率などを理論的に求めることができました。これらのことより,本年度は概ね順調に進展しているものと考えています。
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今後の研究の推進方策 |
今後もテラヘルツパルスの周波数変換に関して,さらに詳細な実証実験と解析を進めていく予定です。 例えば,半導体導波路タイプの周波数変換実験において,理論的に計算される変換効率に比べ,実験で得られる効率が低い結果になっていますが,この原因の一つとして光励起キャリアによる減衰が考えられます。次年度では,光励起キャリアによる減衰率の測定方法を検討し,実験的に測定することを予定しています。また,入射テラヘルツパルスの利用効率が低いという実験上の課題がありますが,導波路の幅を広げることにより入射テラヘルツパルスの利用効率の向上を図ろうと考えています。 テラヘルツ波の周波数変換の自由度をさらに上げるために,共振構造を用いた素子の設計も進めていく予定です。共振周波数が共振器の構造によって決まるため,変換前後の周波数に関して比較的高い設計自由度が得られます。半導体導波路タイプでの実験手法を活かして,共振構造のメリットを取り込むことができないかを検討していく予定です。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 本年度は,当初見込んでいた予定額よりもやや少ない額で研究が進んだため,次年度使用額が生じました。 (使用計画) 次年度使用額は,2021年度の請求額と合わせまして,主に消耗品費として使用する予定です。
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