研究課題/領域番号 |
19K05307
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
林 真至 神戸大学, 工学研究科, 名誉教授 (50107348)
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研究分担者 |
藤井 稔 神戸大学, 工学研究科, 教授 (00273798)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | Fano共鳴 / 光制御 / 多層膜 / フォトクロミズム / 蛍光分光 / 全反射減衰分光 / 導波路 |
研究実績の概要 |
本研究は、多層膜系に蛍光色素やフォトクロミック分子等を導入することにより、多層膜系特有の高いQ値を持つFano共鳴に、光機能性を付与し新奇な光学デバイスを実現することを目的としている。本年度は、主として以下の研究成果が得られた。 1.フォトクロミック分子を用いた、Fano共鳴の光制御:青色光照射によって吸収係数が変化するDR1分子を第1の平面導波路層にドープし、透明な第2の導波路層と相互作用することでFano共鳴が生じる多層膜構造を作製した。反射減衰(ATR)スペクトルをポンプ光照射下で測定し、Fano共鳴形状がポンプ光強度により制御できることを実証した。さらに、フォトクロミック分子としてスピロピラン分子を用い、第1又は第2の導波路層にスピロピランがドープされている、2種類の多層膜構造を作製し、紫外光照射下でATRスぺクトルを測定した。その結果、どちらの構造でも、スペクトル形状がElectromagnetically Induced Transparency (EIT) 形状からFano形状を経て、Electromagnetically Induced Absorption (EIA) 形状まで大幅に制御できることが観測された。また、電磁気的計算により、このような大幅なスペクトル形状は、Fano共鳴多層膜中での、増強された光吸収効果に基づいていることを示した。 2.蛍光励起スペクトル上でのFano共鳴の実現:第1の導波路層に蛍光色素であるDCM分子をドープし、透明な第2の導波路層と相互作用できる多層膜系を作製した。ATR配置により、励起光を照射し励起しスペクトルを測定したところ、明確にFano共鳴が観測された。この結果は、導波路層内の局所電場のFano的挙動が、蛍光を通じて直接モニターできたことを示している。 これらの成果は、新しい光センサー、光源等の開発に応用できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、Fano共鳴の光制御と蛍光スペクトル上でのFano共鳴の実現を段階的に年次を追って施することにしていたが、両者ともに本年度である程度の成果を得るところまで進展した。さらに、従来は行っていなかった、発光スペクトルの電磁気計算も実施し、理論的解析に基づいた現象の理解も当初の計画よりは深まった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、現在にまでに得られている知見を基に、さらに研究を深化し拡大する。特に、発光性のFano共鳴に注力し、蛍光励起スペクトルのみならず、蛍光発光スペクトル上にFano共鳴を実現する。また、従来は角度スキャンATRスペクトル測定、ATR配置での角度スキャン蛍光励起の測定を行って来たが、今後は波長スキャンのATR測定も導入する。蛍光発光スペクトルについても、波長スキャンスペクトルの測定も導入していく。また、多層膜系に配置された双極子からの電磁場放射の理論計算を充実させ、発光パワーの計算のみならず、双極子が作り出す電場分布の計算も可能にし、導波モード間の相互作用による、近接場、局所場のFano挙動を詳細に調べ、さらに新しい光機能性Fano共鳴の発現への指針を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初蛍光スペクトルの励起光源、ATRスペクトルのプローブ用の光源として購入を予定していたArイオンレーザーがより安価な半導体レーザーで代替可能であったり、既設のレーザーでも実験が可能であることが判明し、その分支出が抑えられた。今後は、試料作製のための有機・無機材料、光学部品、PC関連用品等の購入に物品費を使用し、国内外での成果発表に旅費を使用し、また学生研究支援員のための人件費なども使用し、研究を推進する。
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