本研究は、多層膜系が示すFano共鳴に光機能性を付与し、応用に導くことを目的としている。これまでの研究で、フォトクロミック分子を導波路層にドープすることで、Fano共鳴スペクトル形状を光制御できることを示し、また蛍光色素分子をドープすることで蛍光の励起スペクトル、発光スぺクトル両方でFano共鳴スペクトルを出現させることに成功してきた。本年度は、以下の2点についてさらに研究を発展させた。 1.SiナノロッドメタサーフェスのFano共鳴光制御:石英基板上にSiナノロッドの周期的配列構造を作製し、さらにその上にスピロピラン分子をドープしたポリマー導波路層を堆積したメタサーフェス構造を作製した。UV光照射により、透過スペクトルに現れるFano dipの光制御を試みたところ、理論予測とほぼ一致する、光照射によるFano dipのシフトを観測することができた。この現象は、光スイッチ等への応用が可能である。 2.多層膜系Fano共鳴線出現のメカニズム探求:多層膜系のFano共鳴では、導波路層内の局所電場が本質的な役割をすることが示唆されていたが、詳しい解析はされていなかった。本年度は、電磁気計算で得られた局所場分布の計算結果とスペクトルフイッティングの手法により、Far-fieldでのFano共鳴発現のメカニズムを明らかにした。その結果、Far-fieldスペクトルは、一方の導波路内でのFano型吸収スペクトルと他方の導波路内でのLorentz型吸収スペクトルの足し合わせで、決定されていることが判明した。さらに、そのうちのFano型吸収スペクトルは、導波路層内の異なる位置での局所場が示す異なったFano型スペクトルの重ね合わせによって与えられることが判明した。このことは、多重Fano共鳴が多層膜系で生じていることを物語っている。この知見は、局所場で動作するデバイスの設計に必要である。
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