二光子励起顕微鏡を用いた深部観察では、試料の表面近傍で発生する焦点外蛍光が障害となり観察可能な深さが制限されている。本研究課題では、標識となる蛍光分子に光活性型蛍光タンパク質を用い、多光子励起により焦点外蛍光を抑制した深部観察を実証することを目的とする。 背景光の抑制が困難とされる状況の中、本研究では背景光の発生が励起光のパルス幅に大きく依存することを見出した。マウス脳を模擬した試料では、120 fsの励起パルスより8 fsの励起パルスで観察した方が到達深度が30%ほど大きくなり、これは、同じ深さを観察するにあたり、励起光のパワーを1桁低くしても済むという画期的な結果である。また、非線形フーリエ変換分光法により光活性型蛍光タンパク質 Dronpaの二光子励起スペクトルと二光子光変換スペクトルを測定し、波長800 nm近傍の光変換光と950 nm近傍の励起光を同時に照射しても問題なく、両スペクトル帯域を含む 10 fs以下の超短パルスが効果的であることを示した。 今年度は、Dronpaで染色した蛍光ビーズを埋め込んだ模擬試料を作成し、多光子励起蛍光観察に用いた。Dronpaは負のスイッチング特性を示し、初期状態は明状態であるので、予め水銀ランプを光源とした400 nmの励起光を照射することで表面近傍を不活性化した。しかし、その深さは試料の散乱長に相当する表面から約0.1 mmまでに留まり、前述の励起光の短パルス化を上回る到達深度の拡張には至らなかった。
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