研究課題/領域番号 |
19K05320
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
欠端 雅之 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (70356757)
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研究分担者 |
屋代 英彦 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (30358197)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 光プロセッシング / フェムト秒レーザー / セラミックス / ジルコニア / 周期構造 / 表面修飾 / アブレーション |
研究実績の概要 |
医療用インプラントに用いられるイットリア安定化正方晶ジルコニアセラミックスへのフェムト秒レーザー誘起表面周期構造形成(LIPSS)を見出し、医療部材応用にむけた機能性材料膜のコーティングや部材の特性評価を進めている。観察されたジルコニアセラミックス上の周期構造は周期がレーザー波長よりもわずかに大きく偏光に平行な縞状であり、形成機構が未解明である。本研究では (1)ダブルパルス照射による周期構造形成実験、(2) ポンプ-プローブ計測による構造形成の時間発展の観測、(3)得られた実験結果から形成機構を明らかにすること、(4)医療用セラミックス材料表面のレーザー誘起表面周期構造形成の新しい制御方法を開発することを目的としている。 2020年度は引き続き(1)ダブルパルス照射による周期構造形成を中心に研究を進めた。フェムト秒レーザーパルスを異なる偏光状態を持つ二つのパルスに分割し、光振動の1/10ステップで遅延を変化しながら照射した。構造形態の変化が光の一周期に対応する遅延周期で変化することを新たに見出した(国際学会:UP2020、国内学会:レーザー学会で発表)。機構解明や新しい制御方法につながる重要な成果と考えられる。 また表面周期構造形成による表面応力変化の計測と解析を引き続き行った。LIPSS形成により異方性を持つ応力変化があり、4点曲げ機械強度に対し表面応力変化が定量的に関連していることが分かった。また結晶のドメインスイッチングと単斜晶への変化についてもXRD測定により関係を見出した。本結果は形成機構解明やインプラントの実用化で重要な機械強度達成に重要な情報を与える(国際学会(LPM2020)、国内学会(応用物理学会)発表)。 400時間にわたる水熱劣化試験片の透過電子顕微鏡による断面観察・分析を実施し、結晶相変化と内部のクラック進展を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り高精度な遅延光学系を試作構築しダブルパルス照射による周期構造形成実験を実施した。光振動の1/10ステップ(位相精度)で遅延を変化させ、異なる偏光を有する二つのパルスの合成パルスを照射し周期構造を形成した結果、遅延(相対位相)に対する周期的な変化を確認し、国内外の学会での発表を行なった。以上は構造形成過程解明と新しい周期構造制御方法につながる成果である。 また表面周期構造形成前後の表面応力を測定し、従来報告がされていない表面周期構造形成と異方性のある残留応力変化を確認した。更に周期構造形成を施した試料の機械強度に対して表面応力の変化が影響を与えていることを明らかにした。以上は周期構造形成の機構解明に新しい知見を与えるとともに、部材の実用化において重要である。 さらに、長時間(400時間)にわたる水熱劣化試験を実施したサンプルの透過電子顕微鏡による断面観察と分析を実施し、結晶相変化と内部のクラックの進展を確認した。 以上のように、研究目的である周期構造機構解明および新しい制御方法の開発につながる結果が得られており、おおむね順調に研究が進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、他種材料でのダブルパルス照射実験とその解析を行うとともに、計画(2)ポンプ-プローブ計測による構造形成の時間発展観測を行う予定である。具体的には表面周期構造形成用励起パルスと観察用プローブパルスを用い、アブレーションによる粒子放出や衝撃波の観察を行う。 また、これまで得られた結果(ダブルパルス照射による周期構造形成機構の結果、表面応力変化、水熱劣化の評価結果)について論文化を進める。 またジルコニアセラミックスに対して本研究とは異なる特性の周期構造形成が他グループから異なる照射条件で報告されており(Y. Yamamuro et al., J. Micro-and Nano-Manufacturing 8, 010907 (2020))、照射条件と周期構造形成形態の分類についての有用な情報である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により国際学会がオンライン開催になり、当初予定していた海外発表に計上した旅費が発生しなかったことが主な要因である。またコロナ禍で職場への出勤が制限された期間があったことも一つの要因である。最終年度である2021年度は、これらの予算は主に成果発表として論文発表のために使用する予定である。
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