原子炉の過酷事故において,溶融炉心が格納容器底部に落下した場合,格納容器破損に至る可能性がある.このため,国内軽水炉では,溶融炉心落下前に格納容器ペデスタルに事前水張りする過酷事故緩和策をとることが想定されている. 本研究の目的は,溶融炉心プールの上面に形成される固化クラスト層を模擬した伝熱面上に,水中で分散・微粒化した固化デブリを模擬した発熱粒子を堆積させた沸騰形態での限界熱流束(CHF)について実験的検討を行い,事前水張による過酷事故緩和策は成立しないとする既往モデルの予測の妥当性の有無を検証することにある. 平成31年度は,CHF測定に供する実験装置の作成を行った.令和2度は,堆積粒子層を内部発熱させてCHF測定実験を実施した.粒子には3mmから15mmの鋼球を用い,高周波誘導加熱装置より内部発熱させた.その結果, 伝熱面上のCHFは既往モデルの予測とは異なり粒子層の内部発熱量に依存しない一定値となることが明らかになった.令和3年度は,粒子径を1mmに変えた実験を実施した.その結果,粒子径3mm以上の場合とは異なり, CHFは既往モデルの予測と同様に粒子層の内部発熱量の増加とともに単調に減少することが判明した.令和4年度は,透明伝熱面を用いて下面から可視化測定を実施した.その結果,粒子径1mmと2mm以上では伝熱面のドライアウト挙動に顕著な違いが現れることが判明した. 以上の結果より,固化クラスト上に堆積した粒子デブリ径が2mm以上では,溶融プールはクラスト面上の沸騰によって事故後早期に除熱が開始され,事前水張による緩和策は有効であると予想される.一方,粒子径1mm以下では,既往モデルから予測されるように溶融プールが長時間に亘って冷却できない可能性がある.過酷事故緩和策の有効性検証にあたっては,この点に十分な注意を払う必要がある.
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