研究実績の概要 |
ZrO2の液相は極めて低いガラス形成能や特異な局所構造を有する興味深い物質であり、その特異な性質に起因する非常に低い粘性が予想されていた。しかし、ZrO2の融点の高さから物性測定が困難であり、測定値は報告されていなかった。近年、申請者はガス浮遊法を用いることで、ZrO2の粘性の測定に成功し、確かに低い粘性を有することを明らかにした。そこで本研究では、ZrO2の特異な性質と酸素組成との関係についての知見を得ることを目指し、Zr-O系の液相の物性が酸素組成に対してどのように変化するのかを明らかにすることを目的とした。酸素量が多い組成では酸化物に適したガス浮遊法を、酸素量が少ない組成では金属に適した静電浮遊法を用いることとした。 通常の物質では液相の方が固相よりも密度が低いが、H2OやSi, Geでは液相の方が密度が高いために異常液体と呼ばれる。ZrO2が異常液体か否かは知られていなかったため、ガス浮遊法を用いた評価を試みた。SiやGe等の異常液体とAuやCu等の通常液体についてガス浮遊法を用いて急冷凝固させ、その凝固挙動を評価したその結果、SiやGeでは凝固時に突起が生じるのに対し、AuやCuでは突起が生じないことを見出した。これは異常液体では凝固時に体積が増加するためであると考えられる。SiとGeの凝固試料外観を撮影して輪郭を抽出し、2値化処理を施した上で突起の大きさを評価したところ、突起の大きさは凝固時の体積増加率と相関があることが分かった。以上により、ガス浮遊法を用いた溶融凝固試験を行うことで異常液体か否かについての評価が可能となることを見出した。続いてZrO2、TiO2、Al2O3について同様にガス浮遊法を用いた溶融凝固試験を実施したところ、ZrO2においてのみ突起の発生が確認できた。すなわち、ZrO2も異常液体である可能性があることが明らかとなった。
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