研究実績の概要 |
本課題では,超高圧電子顕微鏡を用いた電子照射その場観察により,鉄と銅に形成される格子間原子集合体の一次元(1D)運動を調査し,集合体の形成と成長,さらに照射損傷組織発達に1D運動がどう影響しているのかを明らかにすることを目的としている. 純度の異なる5種類の純銅材料(公称純度 9N, 6N, 5N, 4N, 3N)のそれぞれについて,『熱処理なし』『バルク熱処理』『標準(熱処理)』の3種類の試料を作製し,超高圧電子顕微鏡(北海道大学JEM-ARM1300)を用いて1250kV電子照射を行い,導入される格子間原子集合体の1D運動をその場観察した.照射温度は300 K,照射強度は0.007 dpa/sとした. 全ての試料に間欠的な1D運動が観察され,昨年度注目した1D運動距離に引き続き,1D運動が生ずる頻度に注目した.高純度の9Nと6Nの標準試料では1D運動頻度は低く,低純度の5N, 4N, 3Nの標準試料と同じレベルであった.一方,9Nと6Nの熱処理なし試料では照射開始直後に1D運動頻度が約1桁高かった.これは少数の格子間原子集合体が照射開始直後に大きなサイズへと急速に成長し,さらに非常に高い1D運動頻度を持つためであることが判明した.熱処理で導入される不純物が集合体をトラップし1D運動頻度を低下させること,また集合体の成長と1D運動の可否には相関があることが示唆された. 熱処理により導入される不純物を同定するために、9N, 6N, 5N, 4N材料の熱処理なし試料と標準試料について,飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を用いて不純物のピーク強度を測定した.熱処理を行うとCr, Mn, Feのピーク強度が上昇する場合があり,熱処理によりこれらが導入されている可能性が示唆された.
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今後の研究の推進方策 |
熱処理を行なった試料では,Cr, Mn, Feなどの元素について飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)のピーク強度が上昇する場合があった.今後は通常型二次イオン質量分析法(D-SIMS)を用いてこれら不純物濃度の定量測定を実施する計画である.高純度鉄の『熱処理なし』『バルク熱処理』『標準(熱処理)』の試料についても,超高圧電子顕微鏡を用いた電子照射で導入される格子間原子集合体の1D運動のその場観察実験をすでに実施済みである.今後は結果の解析を行い,これまで銅で得られた結果と比較する計画である. 第二のサブテーマにも継続して取り組む.銅などのfcc金属に形成される格子間原子集合体にはプリズマティック型とフランク型の2種類がある.前者は1D運動できるのに対して後者はその構造上1D運動できないため,両者の存在比は照射下における損傷組織発達に影響する可能性がある.微小格子間原子集合体の型の同定法は確立されていないため,本課題では下記の2つの方法を用いて両者の存在比を求めることを試みる計画である.1)超高圧電子顕微鏡による電子照射で微小な格子間原子集合体を導入し,通常型の透過電子顕微鏡を用いていくつかの回折条件で集合体の像を撮影し,像の可視・不可視から格子間原子集合体の型判定を行う方法.2)電子照射下で1D運動を行う集合体をプリズマティック型と同定する方法.
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