研究課題/領域番号 |
19K05338
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
鈴土 知明 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, システム計算科学センター, 再雇用職員 (60414538)
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研究分担者 |
都留 智仁 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 原子力基礎工学研究センター, 研究主幹 (80455295)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | プラズマ対向材 / タングステン / 照射効果 / 溶質軟化 / 陽電子寿命 |
研究実績の概要 |
本事業は将来の核融合技術を実現するためにプラズマ対向材の候補となっているタングステンに関する材料科学研究である。タングステンは照射下で空孔型欠陥が生成されると燃料であるトリチウムを吸蔵し核セキュリティ性・経済性に問題が生じる。また、タングステンは脆性延性転移温度が高く脆性割れしやすいのも問題である。よってタングステンに適切な溶質元素を添加し、これらのタングステンのディメリットを軽減させることが重要である。本事業では、タングステンの溶質元素の照射効果に関する研究(課題1)およびタングステンの溶質硬化に関する研究(課題2)を行う。 課題1はより重要な課題と位置付けられる。研究代表者が過去に行った第一原理計算、キネティックモンテカルロ法および理論的考察から、レニウムやクロム等特定の溶質元素が照射誘起の空孔生成を抑制する効果があると予測されている。今年度、研究協力者らがその実験的な検証に成功した。具体的には電子照射したいくつかのタングステン合金の陽電子寿命を測定し、タングステン・レニウム合金において照射による空孔型欠陥の形成が抑制されていることが明らかとなった。さらに、研究代表者は国際会議の招待講演のプロシーディング論文において上記照射効果抑制の理論をまとめ出版した。 課題2については、タングステンにおいてらせん転位とレニウム等の溶質原子の微妙な相互作用の強さによって溶質原子が軟化をもたらすメカニズムを第一原理計算で明らかにし、すでに当初の目標を達成している。今年度はその波及効果として、最近注目を集めているハイエントロピー合金の研究として成果発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タングステンの照射効果に関する研究(課題1)については、研究協力者らが研究代表者のアドバイスを考慮して合金の探索を行い、研究代表者の第一原理計算からの理論的予測を実験的に検証した。すなわち、レニウム等の添加によって照射誘起空孔生成が抑制されることが実験的に証明された。本プロジェクトの課題申請時には同様のことをキネティックモンテカルロ法等の計算的手法で証明することを目標としたが、並行して行っていた実験的手法が先行して成果を出したことになる。 タングステンの溶質硬化に関する研究(課題2)については、すでに当初の計画であったメカニズム解明を終了している。この成果は、現在非常に注目を集めているハイエントロピー合金研究に役立てられている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目標は研究代表者が提唱した溶質元素による照射効果理論を検証することである。課題申請時ではキネティックモンテカルロ法などの計算科学的な手法を用いることを考え、そのための計算手法の研究を行ってきた。今年度、研究協力者ら中心となって並行して行ってきた実験的な手法が本研究の目標である上記理論の検証に成功する成果を上げた。そのため、今後の計算科学研究の方針を再検討する。当初は上記理論の検証のため、ある程度精度を犠牲にして定性的な計算解析を行うことを考えていたが、実験結果が出たため、このような手法開発の意義が小さくなり、実験との比較が可能な精度の高い手法を開発する必要が出てきた。残りの期間はこのような定量的で精度の高い照射効果モデルを構築するための準備を行い、次のプロジェクトにつなげていく。特に、分子動力学シミュレーションやキネティックモンテカルロ法を加速して照射効果モデリングへの応用する方法を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症流行の影響を受け、令和2年度に予定していた国内外の出張が中止となり、旅費の支出が発生しなかったため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は、令和3年度分経費と合わせて、計算機やソフトウェア等の購入に係る費用として使用する。
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