研究課題/領域番号 |
19K05340
|
研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
下条 晃司郎 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究主幹 (50414587)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 溶媒抽出 / テクネチウム / レニウム / 新規抽出剤 / 金属分離 |
研究実績の概要 |
本研究では長寿命放射性核種(半減期21.1万年)である99TcO4-を特異的に認識可能な抽出試薬を新たに合成し、99TcO4-の高効率な抽出分離システムの開発に挑戦する。令和2年度は、まず、取扱いやすさを考慮し、99TcO4-のモデル元素として非放射性元素であるReO4-を使用し、コールド実験で詳細な抽出実験を行った。アミンを中心に3つのジオクチルアミドを修飾した抽出剤HONTAによるReO4-の抽出実験から抽出平衡メカニズム、化学量論比、抽出平衡式を明らかにした。また、正抽出と逆抽出を5回繰り返しても抽出能は衰えず、HONTAは繰り返し利用が可能であることを確認した。 さらに、放射核種である99TcO4-を実際に用いたホット実験を行い、抽出剤HONTAがReO4-同様、99TcO4-に対しても高い抽出能を示すことを明らかにした。また、市販抽出剤トリオクチルアミン(TOA)、2つのジオクチルアミドを修飾したADAAM(Oct)、2つのジエチルヘキシルアミドを修飾したADAAM(EH)と比較しても、HONTAが最も抽出能に優れていた。この理由は、抽出剤のプロトン化のしやすさが99TcO4-抽出に関与しており、アミンの窒素原子とアミド基の酸素原子によるプロトンとのキレート形成によって、抽出剤のプロトン化が安定化する。その結果、アミド基の個数の増加に伴い、抽出剤のプロトネーションがより促進され、抽出能が向上することが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
テクネチウム-99(99Tc)は長寿命放射性核種であり、使用済み核燃料に多く含まれている。99Tcは水溶液中でオキソアニオン(99TcO4-)として存在する。そのため、①イオンサイズが大きい、②電荷密度が小さい、③強い水和を受ける、④水溶液の条件によって化学種が変化するといった一般的な金属イオンとは異なる化学的性質を有し、99TcO4-を精密に認識可能な抽出試薬を開発することは困難であることが知られていた。 本研究では、アミンに3つのジオクチルアミドを修飾した抽出剤HONTAが99TcO4-に対して高い抽出能を示し、繰り返し利用も可能であることを明らかにした。また、抽出メカニズムはプロトンとのイオン対抽出であり、99TcO4-に対して1分子あるいは2分子のHONTAが結合していることを証明した。本研究成果を速やかに論文投稿したところ、対外的に評価され、論文の表紙を飾った。 以上のように、本研究では新規抽出剤を用いて、高効率な99TcO4-の抽出を達成しており、順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度である令和3年度は2つのジオクチルアミドと1つのカルボン酸をアミンで連結した抽出剤テトラオクチルニトリロ酢酸ジアセトアミド(TONAADA)を用いた抽出実験を行う。得られた抽出挙動をこれまで検討した抽出剤の結果と比較し、その優位性を議論する。また、夾雑イオン(他の金属アニオン種や無機酸など)に対するReO4- (99TcO4-)の選択性を検討する。さらに抽出錯体構造を明らかにし、得られた抽出データや構造化学的な特徴から抽出剤の分子構造と金属抽出能の相関関係を解明する。時間的余裕があれば、SPring-8にて放射光実験を行いたい。得られた成果を取りまとめ、適宜成果の発表を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
契約差額のため、数千円の残額が生じた。次年度使用額は、令和3年度分経費を合わせて、実験に使用する消耗品として使用予定である。
|