研究課題/領域番号 |
19K05343
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター |
研究代表者 |
中川 清子 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター, 開発本部開発第二部環境技術グループ, 主任研究員 (30462980)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ESR / アラニン / 糖 / ラジカル |
研究実績の概要 |
放射線利用分野は、原子力や工業分野から医療の現場まで広がり、より低線量域での評価が可能な線量計の開発が期待されている。アラニン線量計は、放射線照射により生成するアラニンのラジカルをESR(電子スピン共鳴)装置で測定し、線量評価する。しかし、アラニンラジカルの信号はブロードで、低線量での評価の改善が困難である。また、温度や時間の経過によりスペクトルの強度や形状が変化することが知られている。本研究では、軟X線を照射しながらアラニンから生成するラジカル種の時間変化を詳細に測定し、ラジカル生成機構を検討する。Spring-8のBL23SUステーションで、アラニンd3に1500 eVの軟X線を照射したところ、脱アミノラジカルが水素置換反応を起こしスペクトル形状が変化する様子を、初めて直接観測する事ができた。さらに、ESRスペクトルをシミュレーションと比較したところ、γ線や硬X線照射より線幅が1.5倍である事がわかった。一方、ラジカル生成量は、実際の吸収線量の10-6程度であった。照射後のアラニン水溶液をLC/MS分析したところ、脱アミノラジカルが結合した化合物の生成が確認され、1500 eVの軟X線照射ではラジカル再結合が起きていると推測された。 糖類から生成するラジカルはシャープな信号を与えるため、線量計として使用できる可能性を検討する。昨年度の結果から、グルコース(混合物)、βグルコース、スクロースの3種について、0.005~20 kGyまでのガンマ線照射で、線量応答性および経時変化を詳細に検討した。線量依存性および半年間の信号安定性は、βグルコースが最良の結果を与えた。また、マルトース(一水和物)におけるラジカル生成機構について、ENDOR測定(分子研の施設利用)を行い水和水によるラジカル生成に変化が観られるか調べたが、違いが判別できなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
軟X線照射によるアラニンのラジカル生成の直接観測については、論文執筆中である。 また、アラニンの軟X線照射において、ESR測定とLC/MS分析を組み合わせる事で、真のラジカル生成量が評価できる事がわかった。 糖ラジカルの線量計への利用については、βグルコースの利用で最適化できる見通しがつついた。 マルトースのENDOR測定の際、再結晶化について検討したところ、無水マルトースの結晶化は困難であった。糖類の結晶中では水分子の配位がラジカル生成に影響がある事から、線量計の作成には結晶状態の維持が重要であると示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
アラニンの軟X線照射で生成する真のラジカル生成量について、X線のエネルギー依存性を測定する事で、ラジカル生成密度を評価できると考えられる。今後は、高エネ研のSORを利用して、研究を進める予定である。 また、βグルコースのペレットを錠剤作成器で作成し、線量計として使用するための評価法を確立する。マルトース(一水和物)のラジカル生成機構について、照射後の水溶液をLC/MSで生成物分析し、ESRの結果と比較することで、ラジカル生成への水和水の影響を検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響で、学会のほとんどが中止かWebになったため、学会のための出張旅費や会費が予定外に少なかった。特に、国際会議が中止になったのが、大きかった。 今年度も、旅費や会費はあまり使用しないと思われるが、ペレット作成用の器材やESR用消耗品、試薬の購入等の物品費に使用予定である。
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