研究実績の概要 |
固体線量計の一種であるアラニン線量計は、放射線照射により生成するアラニンのラジカルをESR(電子スピン共鳴)装置で測定し、線量評価する。本研究では、Spring-8のBL23SUステーションで、1.5keVの軟X線を照射しながらアラニンから生成するラジカル種の時間変化を詳細に測定し、ラジカルの時間変化を測定することに成功した。また、軟X線照射は、ガンマ線や硬X線より高LET照射であり、ラジカルの生成効率が低く、ラジカル再結合が起きている事がわかった。さらに、高エネルギー加速器機構のフォトンファクトリーにおいて、アラニンに2, 5.35, 7 keVの軟X線照射したところ、軟X線のエネルギーが低下するに伴い、少ないフォトン数でラジカル生成効率が低下することがわかった。軟X線のエネルギーが低くなると、単位フォトンあたりのエネルギー付与が、深度方向ではなく、面方向に広がる事を示していると考えられる。 糖類から生成するラジカルはシャープな信号を与えるため、線量計として使用するための条件を検討した。単糖類について、ガンマ線照射での線量応答性および経時変化を詳細に検討したところ、βグルコースが最良の結果を与えた。また、βグルコースのペレットにガンマ線照射し、保管状態によるラジカルの安定性を確認したところ、脱気保管すると変化がなく、水分の除去が重要である事がわかった。さらに、一水和マルトースと無水マルトースにおける生成ラジカルの違いを調べたところ、一水和物では、ブロードな信号が時間とともに変化することがわかった。照射したマルトースを水に溶解してLC/MSで分析したところ、C=OとH2Oの脱離したイオンが観測され、水分子との水和により、ラジカルからプロトン移動した中間体の存在が示唆された。糖類では、その結晶中の水和結合の状態が、ラジカルの生成機構や安定性に関与すると考えられる。
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