正長石と斜長石,石英を等温加熱し,NTL(天然熱発光)強度とATL(人工放射線照射熱発光)強度の挙動を観察した.正長石,斜長石,石英のNTLの熱に対する減衰の程度には大差がないが,TL強度については斜長石NTLの方が微弱であることがわかった.従って,石英の熱発光を用いた地熱探査法と比較して精度は劣るものの,長石の熱発光についても地熱探査に活用可能であると考えられる.また,ATLについては,放射線照射後から強度が経時減衰するため測定時間に制約はあるものの,熱影響の大小に伴って発光強度に差が生じたことから,地熱探査に有効であると考えられる.また,発光波長の分光結果については,鉱物種ごとの明瞭な差異は確認できたものの,熱影響による差異を確認するには至らなかった. これらの基礎的な実験に加えて,エルサルバドルアフアチャパン地熱地帯において採取した長石試料を用いた,熱発光による地熱兆候探査の実証を行った.NTLとATLのどちらを用いた場合も,地熱源に近いと考えられる場所の試料の方がNTL強度およびATL強度が小さくなるという結果が得られた.この結果から,長石の熱発光を用いた地熱探査法が有効であることが示された.しかし,斜長石NTLは発光が微弱であり,熱の影響を反映しきれない可能性も示唆されたため,既往の石英NTLを用いた地熱探査と比較して,斜長石のNTLのみを用いた地熱探査は精度が劣る可能性がある.そこで,石英NTLと同等の精度の探査法にするために,実用上では地熱地帯全体をNTLで探査し,NTL強度の差がない場所などで部分的にATLを活用するという方法が考えられる.
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