地熱資源の効率的な開発や持続的利用を図る上で,地熱流体の起源や循環状態に関する知見が有用となる。特に地熱流体の滞留時間については,循環の活発さを反映した定量的な指標となることが期待され,その推定方法の確立が望まれる。そこで本研究では,多項目の環境トレーサーの分析結果に基づいて,地熱流体の起源や滞留時間を推定する手法を構築することを目的とした。研究サイトはインドネシア,ジャワ島西部のバンドン盆地周辺に位置する地熱地域である。 最終年度である本年度は,2019年度に採取した水試料の分析結果を用いて,地熱流体における起源の異なる水の混合割合とその滞留時間を推定する手法について引き続き検討した。試料は端成分(天水,海水,マグマ水)が混合したものであると仮定し,2020年度の成果を参考にハロゲン元素の濃度に基づいてこれら端成分の混合割合を算出した。その結果,ほとんどの試料で雨水の混合割合が94%以上となったが,海水やマグマ水の混合割合が高い地点もわずかに認められることが明らかとなった。ハロゲン元素濃度の相関や推定された端成分の混合割合から,相対的に濃度が高い地点では,海水とマグマ水が3:1で混合した水と天水が混合していることが示唆された。一方で,少なくとも部分的に蒸気卓越型の地熱貯留層の存在が知られている地熱地域では,ハロゲン元素濃度が天水よりも低い地点が認められ,地熱流体の沸騰や凝縮の影響を受けた水であると考えられた。2020年度は天水混合の影響のみを考慮してCl-36により滞留時間を推定したが,本年度はCl-36の分析結果を対象に天水とマグマ水の混合の影響を補正した上で,海水の滞留時間を推定することができた。 今回の研究を通して構築された,地熱流体を構成する起源の異なる水の混合割合やその滞留時間を推定する手法を他の地熱地域にも適用することで,その有効性について検討を続ける予定である。
|