研究課題/領域番号 |
19K05351
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
笹岡 孝司 九州大学, 工学研究院, 准教授 (20444862)
|
研究分担者 |
島田 英樹 九州大学, 工学研究院, 教授 (70253490)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 海洋底資源 / 吸引採掘実験 / 海底土壌の挙動 / 土壌の含水比率 / シーリング材 / 環境負荷低減 |
研究実績の概要 |
海洋底資源の開発において、採鉱に伴う環境への影響を評価するために、採掘時における土壌の挙動把握が必要不可欠である。また、これまでの研究成果から、無機系シーリング材を用いて予め鉱区を被覆することにより、開発に伴う環境への影響を抑制出来る可能性が示唆された。そこで今年度は、レアアース泥採掘とシーリング材施工への適用性のある吸引採掘に着目し、実験室規模での模擬採掘(吸泥実験)を行い、採掘時の土壌の挙動を明らかにするとともに、シーリング材施工時の環境負荷低減効果に関して検討を行った。 レアアース泥は土質分類において粘土と定義される。その液性限界や含水比は様々であるため、採掘時の挙動に差異が生じることが予想される。そこで、液性限界の異なる試料を作製し、各試料の含水比を変えた模擬土壌を作製し、吸引試験において吸引量および沈下挙動の影響範囲を測定した。その結果、土壌の含水比率の増大に伴い、吸引量が指数関数的に増大するとともに、沈下挙動の影響範囲についても正の相関をもって増加傾向が認められた。このことから、レアアース泥採掘時の海底土壌の採掘挙動は、含水比率によって規定できることが示された。 また、シーリング材施工時における土壌の採掘挙動の把握のため、模擬土壌表面にシーリング材を厚さ10 mmで施工し吸引試験を実施した。その結果、含水比率が1.5以下の場合では同程度の吸引量が確保されることが明らかとなった。一方、含水比率が1.5を超える場合では、吸引量の減少が認められるとともに、土壌の見かけ密度の減少に伴い、シーリング材が模擬土壌に埋没し被覆性が損なわれる現象が確認された。従って、本研究で用いたシーリング材の適用範囲は海底土壌の含水比率が1.5以下であり、本適用範囲内であれば周辺環境への影響を抑制するとともに実収率を低減させることなく採掘が可能になることが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度に実施を予定していた<Phase2:模擬採掘実験>について、昨年度から設計・製作を行っていた模擬採掘実験装置が予定通り完成し、一連の室内実験が実施出来た。その結果、海底に賦存する土壌(レアアース泥)を吸引採掘する場合、土壌自体の含水比率によって土壌の吸引挙動および海底面の沈下挙動が大きく異なることが明らかとなり、またその挙動特性も明らかとなった。さらに、令和元年度の研究成果により開発・選定したシーリング材を海底を被覆した場合の、採掘に伴う周辺環境への影響抑制効果についても実験により検討を行った。一連の実験結果から、開発・選定したシーリング材を用いて海底を被覆することで、採掘に伴う周辺環境への影響を抑制出来ることが明らかとなった。一方、海底土壌の含水比率によりその抑制効果が大きく異なることも明らかとなり、各シーリング材によりその適用範囲が存在することが明らかとなった。 さらに、令和3年度に実施予定の環境影響評価および長期安定性評価に関する検討も進んでおり、おおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、令和2年度実施した模擬採掘実験を引き続き行うとともに、採掘後の海底環境の長期安定性や生態系への影響評価を行う。具体的には以下の項目について検討を予定している。(1)界面活性剤を用いて海底土壌の採掘挙動の改善の可否およびその吸引挙動の相違に関して検討を行う。(2)長期静置(封圧下)後の試料を用いて以下の各種試験を実施する。(a)硬化特性の劣化:強度試験(令和元年度と同様)(b)水和生成物の変化:現有の蛍光X 線解析装置およびX 線回折装置を用いて行う。(3)実験結果と文献調査により、生態系への影響について検討する。 これまでの研究成果を取りまとめ、産業副産物を含む被覆材の海洋底鉱物資源開発およびその後の環境修復への適用可否について検討するとともに、各種海洋底環境および採掘条件下における配合・施工指針を提案する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は、国内外の世界的な新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、他研究機関への意見交換や打ち合わせ、また当初出席を予定していた国際学会の開催がキャンセルとなったりオンライン開催により旅費が不要になる等、研究成果発表に必要な費用として計上していた旅費を使用することが無くこのため差額が発生した。なお、この差額については令和3年度の実験材料費用あるいは試料分析費用として使わせていただく予定である。
|