研究課題/領域番号 |
19K05361
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
喜多村 昇 北海道大学, 理学研究院, 名誉教授 (50134838)
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研究分担者 |
三浦 篤志 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (90379553)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | エアロゾル液滴 / レーザー捕捉・顕微分光 / 過冷却液体 / 液滴サイズ依存性 |
研究実績の概要 |
これまで水、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エタノール(EtOH)、およびホルムアミド(FA)の空気中におけるエアロゾル化とともに、これらの単一微小エアロゾル液滴のレーザー捕捉に成功している。また、レーザー捕捉した単一エアロゾル液滴を対象として顕微時間分解蛍光分光や顕微非偏光・偏光ラマン分光による液体物性研究を試み、下記のような研究成果をあげた。 空気中に浮遊させたDMSO液滴はマイナス60度近辺まで凍結せずに過冷却液体として存在する事を明らかにした。バルク系におけるDMSOは+18度近辺で凍結するが、空気中に浮遊して空気以外と物理的接触が無いエアロゾルDMSO液滴は氷晶核を生成しづらいために過冷却状態となる。同様な過冷却状態はエアロゾル水滴においても確認されている。また、エアロゾルDMSO液滴の粘度の温度依存性を測定したところ、バルクDMSO液体の粘度の温度依存性に比べ、より大きな温度依存性を示すことを明らかにした。特に、DMSO液体の粘度は室温下においてエアロゾル化させることによりバルク系に比べて上昇することを液滴のレーザー捕捉・顕微偏光ラマン分光から明らかにした。エアロゾル化による液体粘度の上昇は、平坦なバルク液体に比べて球形界面を有する液滴では表面張力が大きくなることに起因するラプラス圧効果によるものと考えられる。これまでのところエアロゾルDMSO液滴について詳細な結果が得られていないが、エアロゾル水滴やEtOH液滴の粘度は液滴サイズの減少とともに表面張力が上昇することを実験的に示すことができ、粘度上昇はラプラス圧効果であることを実験的に明らかにする事ができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの単一エアロゾル液滴のレーザー捕捉研究の対象の多くは水滴であり、エアロゾル有機液滴のレーザー捕捉研究は限られていた。そのような状況のもと、本研究においてエアロゾル化のためのネブライザーを工夫することにより、DMSO、EtOH、FAのような有機エアロゾル液滴の研究に展開することに成功した事は大きな成果である。本エアロゾル液滴作成法は、これらの液体以外の多くの有機液体に適用可能であると考えられ、本研究の更なる展開が期待される。 また、エアロゾル液滴物性の研究に顕微時間分解蛍光分光や顕微非偏光・偏光ラマン分光を導入して成果を得ていることも大きな成果である。特に、単一微小液滴の粘度を直接測定する事は難しい現状の中、レーザー捕捉・顕微偏光ラマン測定を通して液体分子自身の回転緩和速度を求め、これとStokesーEinstein式に基づき液体粘度を決定できる事を示すことができた。これによりエアロゾルDMSO液滴およびEtOH液滴の粘度の温度依存性や液滴サイズ依存性を明らかにすることができた。これは、単一エアロゾル液滴の物性評価法としても価値がある成果である。 さらに、1)空気中に浮遊しているエアロゾル液滴はバルク液体の凍結温度以下において過冷却状態になりやすい事、ならびに2)液体をエアロゾル化することにより、ラプラス圧効果により液体粘度が上昇することは、エアロゾル液滴に共通する特質であることを示す事ができた。上記2)については、エアロゾル液滴粘度の液滴サイズ依存性として実験的に証明することができた。 以上の初年度の研究成果から、研究の進捗状況は「おおむね順調」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の準備段階ならびに初年度(2019年度)の研究により、1)エアロゾルDMSO液滴の過冷却状態生成および液滴粘度の温度依存性、および2)エアロゾル水滴粘度の液滴サイズ依存性については多くの研究成果を得ている。これらの研究成果については現在、論文執筆中であり、2020年度中の論文公表を目指す。また、現在までの進捗状況に記載したように、エアロゾル液滴のレーザー捕捉・顕微偏光ラマン分光法は、単一微小液滴の粘度を直接測定することのできる有用な手法である。本手法に基づく3)エアロゾルEtOH液滴粘度の液滴サイズ依存性を研究例とし、本手法の詳細をまとめ、2020年度中の論文公表を目指す。 現在、エアロゾルFA液滴のレーザー捕捉・顕微蛍光分光法による研究を集中的に行っており、2020年度以降においても本研究を継続する。エアロゾルFA液滴粘度についても液滴サイズ依存性が現れることが明らかになっているため、より詳細な研究を行う。また、FAは水素結合性溶媒であり、過冷却状態における水素結合性・様式に大きな興味が持たれるため、エアロゾルFA液滴のレーザー捕捉・顕微ラマン分光を駆使し、これを明らかにする研究を推進する。さらに、エアロゾルFA液滴の酸塩基性度や極性(誘電率)の温度依存性・液滴サイズ依存性についても、フルオレッセインやトリ-9-アントリルボランを蛍光プローブとするレーザー捕捉・顕微蛍光法から明らかにする予定である。この他、p-トルイジン、フェノール、m-クレゾール等の有機液体のエアロゾル化と、単一液滴のレーザー捕捉・顕微分光にも取り組み、エアロゾル液滴物性(酸塩基性度・水素結合性等)の特徴を明らかにするとともに、これらのエアロゾル液滴の過冷却状態生成についても研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究は順調に遂行されている。そのため、次年度に、より有効に研究資金を投入するために次年度に繰り越すこととした。また、新型コロナウイルスの流行により2020年3月に開催予定であった日本化学会春季年会が中止になったため、これに予定していた旅費経費分が次年度繰り越しとなった。
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