研究課題/領域番号 |
19K05362
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
石橋 孝章 筑波大学, 数理物質系, 教授 (70232337)
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研究分担者 |
近藤 正人 筑波大学, 数理物質系, 助教 (20611221)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 振動和周波分光 / 表面・界面 / 脂質膜 |
研究実績の概要 |
抗菌ペプチドであるグラミシジンが細胞膜中でイオンチャンネルを形成する過程を観測するために,固体基板/水界面に作製した脂質二分子膜を簡単に測定できる内部反射配置HD-VSFG分光装置を構築し,脂質膜にグラミシジンを添加したときの非線形感受率chi(2)スペクトルの時間変化を測定した.その結果,グラミシジンは二分子膜中で300秒以内に反転対称性を持つ二量体構造を形成することを明らかにした.構築した内部反射配置HD-VSFG分光装置によって,埋もれた界面に存在する試料の絶対的なchi(2)を測定することが可能となった.VSFG分光については,他に気水界面で形成される膜分子と水溶液中の溶質の作る水素結合体やポリマー表面の分子構造解析を行なった.全内部反射(TIR)ラマン分光法については,試料部分の改良作業を行なった.TIRラマン分光法によって、脂質二重膜と生体分子の相互作用の観測するためには,脂質の組成の違いや,膜と接した水溶液中の溶質成分の濃度によるスペクトル変化を捉える必要があり,測定精度が非常に重要である.測定精度を向上させるために,セルを新たに設計・作製した.これまでの半球プリズムを使用したセルは試料部を一つしかもたないため,試料を変更する際には重要な構成要素であるプリズムを装置から取り外す必要があった.そのため,このセルには,再現性のあるスペクトルを得ることが難しいという精度の問題があった.そこで,複数の試料部をもつ半円筒プリズムを使用したセルを作製した.並進ステージを用いてその位置を切り替えることにより,プリズムを外すことなく異なる試料部の試料のスペクトルを同じ条件で精度よく測定することが可能になった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
VSFGに関しては,初年度に予定していた水溶液中の二分子膜-タンパク質複合体の測定をグラミシジンを使用して行うことができた.当初は,感度向上のために全内部反射(TIR)配置を採用する予定であった.しかし,本年度,予想していなかったVSFG分光装置の基幹部分であるチタンサファイアレーザーの出力低下が始まった.検討の結果,TIR配置でのヘテロダイン検出VSFGの測定は,測定可能な装置のアラインメントの許容幅が非常に狭いため,レーザー装置の安定性が必ずしも高くない状況では,通常の内部反射配置での測定の方が現実的であることがわかった.そこで,測定を通常の内部反射配置を行なうことに方針を変更した.変更後の測定で有意な結果を得ることはできたが,VSFGに関する研究の進捗にやや遅れが生じた.次年度には,レーザーの部品交換等によって装置の出力と安定性を高め,より高い精度の測定を行う予定である.TIRラマン分光については,新しい試料セルの開発によって,これまで課題であった測定データの高い再現性を達成する事ができた.
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今後の研究の推進方策 |
初年度に整備した装置を使い,脂質膜と貫通性タンパク質の相互作用,脂質膜と脂質プローブ用の蛍光プローブ分子の相互作用について詳しく測定し,脂質分子や取り込まれたタンパク質または蛍光プローブ分子のコンフォメーションや配向の情報を検討する予定である.またVSFG装置については,基盤となるレーザーの強度と安定性を回復させるため高額な部品の交換を行う予定である.本研究の研究費の殆ど全てを使用する必要があるため,当初,予定していた無細胞合成に関する研究の準備は中止し,比較的小さなタンパク質,ポリペプチド,蛍光プローブ分子をゲストとした脂質膜を対象とした研究に限定する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度,予想していなかったVSFG分光装置の基幹部分であるチタンサファイアレーザーの出力低下が始まった.本年度については,測定が可能な状態をなんとか維持できたが,次年度以降,研究を継続するためには,装置の修理・調整が不可欠であると判断した.そのために必要な高額な部品の交換の費用として使用するために,本年度の予算を次年度に持ち越し,本年度および次年度予算を合算して,部品交換を行う予定である.
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