研究課題/領域番号 |
19K05366
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中林 耕二 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (80466797)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 分子磁性体 / ホストーゲスト化学 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、ナノチャンネル構造を持った強磁性体CoII7[WV(CN)8]4Cl2・19H2O・6(acetone)をホスト化合物として用いて、ナノチャンネル中のゲスト分子やイオンの挙動を明らかにすることを目的としている。これまでに、ナノチャンネル強磁性体が、大気中において溶媒脱離に伴う単結晶相構造変化によりナノチャンネルが閉じた構造に変化し、その構造変化に伴って磁気特性が変化することを明らかにしている。令和2年度は、ナノチャンネル強磁性体の磁気異方性の起源を明らかにするため、単イオン異方性を有すると考えられるコバルトイオンに着目し、その電子状態およびスピン状態の検証を第一原理計算により行った。ナノチャンネル強磁性体の結晶構造には、結晶構造上非等価なコバルトイオンサイトが3種類(Co1, Co2, Co3)存在する。Co1はシアノ基で架橋されたCo-Wからなる円柱構造の中心、Co2はその円柱側面に存在し、Co3は円柱と円柱を繋いでいる。これら各サイトにおけるコバルトイオン周りの配位構造の座標をそれぞれ用いて計算した。その結果、Co1およびCo3におけるg値が異方的であり、Co2のg値が等方的に近いg値を示した。また、ナノチャンネルが閉じた構造においても同様の計算を行い、Co1およびCo3が異方的であり、Co2が等方的に近いg値となった。ナノチャンネル中の溶媒(アセトン、水)を他の溶媒に交換するため、ナノチャンネル強磁性体単結晶をジメチルスルホキシドに浸し、室温において静置した。数日後、単結晶構造解析を行ったところ、ナノチャンネルの内壁にはアセトンが残存しており、かなり強く捕捉されていることが示唆された。これは、Coに配位した水分子がナノチャンネル内壁に存在し、この水分子とアセトンが水素結合していることに因るものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、ナノチャンネル強磁性体を利用することにより、ナノチャンネル中のゲスト分子やイオンの挙動を明らかにすることを目的としている。これまでに、ナノチャンネル中の溶媒脱離に伴い、結晶状態を保ったままナノチャンネルが開いた構造から閉じた構造に変化することを明らかにしている。このことから、ゲスト溶媒分子の交換は溶媒中で行うことが適していると考えられるが、ジメチルスルホキシドとの交換反応においては、反応後もアセトン分子が一部ナノチャンネル内壁近傍に残存していることがわかった。また、開いた構造、閉じた構造の磁気特性の起源を明らかにするため、電子状態およびg値の計算を行い、結晶構造に3種類存在するコバルトイオンサイトの違いにより異なる単イオン異方性を有することが示唆された。ゲスト分子交換、ナノチャンネル強磁性体の磁気特性の起源に対する重要な知見が得られたことから概ね順調に進んでいると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
ゲスト分子交換後のナノチャンネル強磁性体の結晶構造、磁気特性を明らかにする。温度可変紫外可視吸収スペクトルおよび赤外吸収スペクトルを測定し、磁気相転移温度(29 K)付近におけるゲスト分子およびナノチャンネル強磁性体の電子状態および振動状態を明らかにする。また、ゲスト分子を内包したナノチャンネル強磁性体の交流磁化測定を行い、強磁性転移付近の磁気緩和挙動を明らかにすることで、ゲスト分子の磁気緩和現象に対する影響を検証する。また、磁性ゲスト分子を含むナノチャンネル強磁性体においては、交流磁化測定から求められる磁気緩和時間、磁気異方性エネルギー障壁を求め、ナノチャンネル強磁性体ホストの効果を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍における物品調達の遅れや研究計画の調整が生じたため、次年度に物品費等を繰り越した。
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