研究課題/領域番号 |
19K05366
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中林 耕二 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (80466797)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 分子磁性体 / ホストーゲスト化学 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、ナノチャンネル構造を持った強磁性錯体をホスト化合物として用いて、ナノチャンネル中のゲスト分子やイオンの挙動を明らかにすることを目的としている。このナノチャンネル強磁性錯体は、室温大気下においてナノチャンネル中のアセトン分子が脱離し、単結晶状態を保ったまま、ナノチャンネルが開いた構造から閉じた構造に変化する。また、その構造変化に伴って保磁力のある強磁性状態から保磁力のない強磁性に磁気特性が変化することを明らかにしている。令和3年度は、この結晶構造変化に伴う磁気特性の変化を詳細に調べるため単結晶を用いた磁化測定を行った。まず、磁化測定が可能な大きさの単結晶を得るため、合成条件を検討した。その結果、コバルトイオン溶液とオクタシアノ錯体溶液を積層した直後に穏やかに撹拌し、その溶液を1-2ヶ月静置することで、各辺の長さがこれまでの2~3倍程度の結晶を得た。この反応条件は、初期の撹拌以外は、概ね従来の合成法と同じであることから、初期撹拌によってある程度溶液が均一になった状態を長時間静置することが本化合物の結晶成長に重要であることが示唆された。得られた結晶用いて、単結晶磁化率測定を行い、開いた構造においては、ナノチャンネルに沿ったc軸方向が磁気困難軸、ナノチャンネルに垂直なa,b軸方向が磁気容易軸であることが明らかになった。また、閉じた構造においては、粉末試料のときと同様に、ほぼ閉じた磁気ヒステリシスループが観測され、単結晶状態においても保磁力をほぼ有していないことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、ナノチャンネル構造を持った強磁性錯体をホスト化合物として用いて、ナノチャンネル中のゲスト分子やイオンの挙動を明らかにすることを目的としている。これまでに、室温大気下においてナノチャンネル中のアセトン分子が脱離し、ナノチャンネル構造が開いた状態から閉じた状態に変化することを見出している。磁化測定が可能な大きさの単結晶試料の合成が可能になったため、この単結晶構造の変化と磁気特性の変化を詳細に調べることができ、磁化の容易軸方向などが実測から明らかになった。以上より、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
単結晶を用いた磁化測定の結果を踏まえて、ナノチャンネル強磁性錯体の保磁力、磁気異方性の起源について理論的裏付けを再構築する。具体的には、コバルトイオンの一イオン異方性だけでなく、結晶構造中のコバルトイオン、タングステンイオンの配置も考慮し、最安定な磁化の方向を探索する。ナノチャンネルが閉じた構造においても、同様の理論計算を行い、結晶構造変化に伴う保磁力の大きな変化の原因を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
ナノチャンネル強磁性錯体の磁気特性を明らかにするため、詳細な磁化測定および解析が必要があり、磁化測定用の消耗品、解析用の計算機等が必要となったため。
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