• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2020 年度 実施状況報告書

振動を介した分子内エネルギー移動と化学反応の関連性についての理論的考察

研究課題

研究課題/領域番号 19K05367
研究機関東京大学

研究代表者

横川 大輔  東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (90624239)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2022-03-31
キーワード振動モード / 解析的二次微分 / RISM-SCF-cSED法
研究実績の概要

2020年度は、振動を介した分子内エネルギー移動と化学反応の関連性について理論的考察を進めるために、(i)溶液中での化学反応ポテンシャルの高精度計算を目指した手法開発、(ii)振動を介した分子内エネルギー移動を議論するための理論開発を行った。
(i)では、統計力学と量子化学計算のハイブリッド法であるRISM-SCF-cSED法にMoller-Plesset(MP2)法を組み合わせたMP2-RISM-SCF-cSED法の解析的微分を導出した。本手法の有用性を調べるため、溶液内でのシクロペンタジエンとメチルビニルケトン間のDiels-Alder反応に適用した。計算で得られた活性化自由エネルギーは実験結果を2kcal/mol以内の誤差で再現しており、本手法の信頼性を確認することができた。
(ii)の理論開発では、溶液内での基準振動解析を効率的に行うため、RISM-SCF-cSED法で定義された自由エネルギーの座標に関する解析的二次微分を導出し、量子化学計算プログラムの一つであるGAMESSに導入した。プログラムの妥当性を検証するために、溶液内でのホルムアミドの基準振動解析に適用した。今回の解析的に得られた振動数は従来の数値的な結果と極めて良く一致した。また計算時間についても、従来法の約1/8倍に削減できることがわかった。次に、パラニトロアニリン(PNA)の分子構造の平面性について検討を行った。PNA内のアミノ基はピラミダル構造をとっており、分子は完全な平面構造をとっていない。本研究では、このアミノ酸周りの構造を議論するため、アミノ基のワギング振動モードに沿った自由エネルギーを計算した。水中での自由エネルギー曲面を求めたところ、ワギング振動モード以外の振動モードを考慮することで、平面構造の安定性が増加することが明らかになった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

昨年度までの解析で、分子内エネルギー移動の議論を固有反応座標(IRC)に基づいた解析に変更することが望ましいと結論づけた。IRC解析と振動自己無撞着理論(VSCF)で用いられている四次多項式によるポテンシャル曲面 (QFF)を組み合わせて解析することにより、振動モード間のエネルギー移動も議論できると考えた。
そこでIRC解析とVSCF法を用いた計算を進める前に、溶液内での化学反応についてのポテンシャルの高精度計算と、そのポテンシャルの曲率の解析的計算が必要であると考え、2020年度は理論開発に集中した。溶液中でのポテンシャルの高精度計算を行うために、申請者がこれまでに開発してきたRISM-SCF-cSED法をMP2法と組み合わせた。ポテンシャルの曲率の解析的計算では、解析的二次微分を求めることで高速かつ精度良く計算することが可能となった。さらに構造変化に伴う振動モードの変化を追跡することで、分子の運動性についても議論できることを確認した。高精度なポテンシャル計算はVSCF法におけるQFFを求めるときに極めて重要であり、高速で高精度な振動数計算はIRC計算で役立つはずである。前者についてはすでにJournal of Chemical Physicsで掲載済みであり、後者については投稿準備中である。
2020年度は上記の通り、IRCに沿った分子内エネルギー移動を議論する上で重要な、高精度な自由エネルギー計算とポテンシャルの曲率の高速な計算を行うための理論開発に成功しており、おおむね順調に進展していると考えている。

今後の研究の推進方策

前年度までにIRCに沿った分子内エネルギー移動を議論する上で重要な理論開発は終えているので、2021年度はこれらを用いて算出した自由エネルギー曲面を用いて検討を進める。前年度に検討したPNAのアミノ基のワギング振動モードに沿った振動数計算で、各振動モードの振動数変化を追跡することが、分子構造の揺らぎを議論する上で有用なことがわかった。しかしこの構造揺らぎは、振動数変化ではなく振動モードの励起として考えることもできそうである。そこで、本年度は実際の分子について検討する前に、構造揺らぎを記述する振動モードについて深く考察することにする。そのためには、研究計画で述べたヘキサトリエンからシクロヘキサジエンへの閉環反応のような実在分子ではなく、2原子分子の振動のようなモデル系で検討した方が良いと考えている。仮に、分子の運動を振動モードの励起で記述できることが確認されれば、同じ系に対してVSCF法やVSCF-CI法を適用し、非調和性と分子運動の関連性についても考察する。
上記の理論開発と同時に、前年度までに結果を得ている自由エネルギーの解析的二次微分については早急に論文としてまとめる予定である。

次年度使用額が生じた理由

昨年度は新型コロナウイルス感染症が広がったため、ほとんどの学会がオンラインで開催された。そのため、申請者ならびに学生たちの出張代が全く必要なくなり、旅費を一切使わなかった。
今年度は繰り越した額と当初予定の助成金を合わせた上で、計算機関連の消耗品(ハードディスク)や解析用の計算機に使用する予定である。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (3件)

  • [雑誌論文] Investigating the Nonradiative Decay Pathway in the Excited State of Silepin Derivatives: A Study with Second-Order Multireference Perturbation Wavefunction Theory2021

    • 著者名/発表者名
      Inai Naoto、Yokogawa Daisuke、Yanai Takeshi
    • 雑誌名

      The Journal of Physical Chemistry A

      巻: 125 ページ: 559~569

    • DOI

      10.1021/acs.jpca.0c08738

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Analytical energy gradient for the second-order M?ller?Plesset perturbation theory coupled with the reference interaction site model self-consistent field explicitly including spatial electron density distribution2021

    • 著者名/発表者名
      Negishi Naoki、Yokogawa Daisuke
    • 雑誌名

      The Journal of Chemical Physics

      巻: 154 ページ: 154101~154101

    • DOI

      10.1063/5.0046730

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Electrostatic Potential Fitting Method Using Constrained Spatial Electron Density Expanded with Preorthogonal Natural Atomic Orbitals2020

    • 著者名/発表者名
      Yokogawa Daisuke、Suda Kayo
    • 雑誌名

      The Journal of Physical Chemistry A

      巻: 124 ページ: 9665~9673

    • DOI

      10.1021/acs.jpca.0c07425

    • 査読あり
  • [学会発表] RISM-cSED-MP2法, -CCSD(T)法による溶液内化学反応系の高精度電子状態計算2020

    • 著者名/発表者名
      根岸 直輝、横川 大輔
    • 学会等名
      分子科学会オンライン討論会
  • [学会発表] 混合溶媒中でのp-ニトロアニリンの吸収における非理想性に関する理論的研究2020

    • 著者名/発表者名
      矢吹 志保、横川 大輔
    • 学会等名
      溶液化学若手の会オンラインシンポジウム 2020
  • [学会発表] 溶媒和依存性が大きな化学反応に関する活性化自由エネルギーの高精度予測を目指した量子 化学計算手法の開発2020

    • 著者名/発表者名
      根岸 直輝、横川 大輔
    • 学会等名
      溶液化学若手の会オンラインシンポジウム 2020

URL: 

公開日: 2021-12-27  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi