研究課題/領域番号 |
19K05368
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
宮崎 充彦 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 准教授 (00378598)
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研究期間 (年度) |
2019-11-28 – 2023-03-31
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キーワード | 溶媒和クラスター / 溶媒和ダイナミクス / 赤外分光 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、光励起、化学反応に伴う溶媒和ダイナミクスを個別分子の運動に基づき分子論的に理解することを目的としている。特に、溶媒分子間の相互作用が溶媒和ダイナミクスにおよぼす影響を溶媒和構造変化の情報から実験的、理論的に明らかにすることに主眼を置く。 令和三年度は、複数の水を持つ4-アミノベンゾニトリル‐二水和クラスターのイオン化誘起異性化反応の余剰エネルギー依存性の広い範囲にわたる測定を行った。その結果、余剰エネルギーの変化により、三段階の反応経路をたどることを明らかにした。反応はエネルギーに依存して水和水間の水素結合が保持される場合と解離する場合に分かれ、より安定な構造である水素結合が保持される構造が高エネルギーのイオン化で生成量を増やすなど、単純な熱力学的説明とは逆の結果も見られた。このことは、わずかに一つの水和水間の相互作用が溶媒運動に大きな影響を与えることを示している。現在、影響の具体的影響を理論計算も併せて解析中である。 これに加えて、イオン状態の単一振動準位からの溶媒和運動を観測する新たな手段として、質量分析閾イオン化検出赤外分光法(MATI-IR)の立ち上げを行った。飛行時間質量分析装置の電極部分の改良とパルス高電場の工夫により、高分解MATI分光法を用いて分子クラスターのイオン状態の赤外スペクトルを振動準位ごとに測定することに成功した。この分光法を4-アミノベンゾニトリル‐アルゴンクラスターに適用し、アルゴン原子のπ→NH移動が可能であることを初めて実証し、反応閾値の上限を決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複数の水分子を持つクラスターにおける溶媒和運動のエネルギー依存性の観測に成功し、MATI-IR分光法の立ち上げも行うことができたため、この評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
4-アミノベンゾニトリルの二水和クラスターについての基本情報が得られたため、時間分解測定の準備を進める。MATI-IR分光法に関しては、現状ではいまだ検出感度に制限があるため、検出感度の向上、イオン化エネルギーの電場誘起シフトの絶対値の決定、有効な系の探索を行いたい。 その他、新たな励起状態ダイナミクスの系として、エキサイプレックス形成を伴う系の構造的研究を行い、分子間ダイナミクスの可能性について探る予定である。
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