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2020 年度 実施状況報告書

高分子ミクロ物性の定量的予測の実現に向けた計算化学と機械学習の融合

研究課題

研究課題/領域番号 19K05372
研究機関滋賀大学

研究代表者

高柳 昌芳  滋賀大学, データサイエンス教育研究センター, 准教授 (70597575)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2022-03-31
キーワード分子動力学計算 / 密度汎関数理論計算 / Red Moon法 / ポリメタクリル酸メチル / 機械学習 / 立体規則性 / 立体規則性
研究実績の概要

重合反応により生成される高分子のミクロ物性は、実用上重要なマクロ物性を制御する上で極めて重要である。本研究では、ミクロ物性の定量的予測を実現することを目的として、高分子重合過程シミュレーション手法の開発を推進している。
昨年度は、最初の解析対象として、メタクリル酸メチル(MMA)単量体のラジカル重合により合成されるポリメタクリル酸メチル(PMMA)の立体規則性(タクティシティ)の指標となるメソ比の定量的再現およびその決定機構の解明を行った。ラジカル末端とモノマーで構成されるモデル系に対し、数か所の二面角回転に対してインデックスを割り振り、グリッドサーチ的手続きにより多数の遷移状態(TS)配座構造を生成し、密度汎関数理論(DFT)計算により活性化エネルギーを算出することで、ボルツマン因子から実験値に近いメソ比を得ることに成功した。本年度は、この手続きがラジカル重合系一般に適用できることを示すことを目指して、ポリスチレン(PS)系など他のラジカル重合系への適用を進めている。また、グリッドサーチ的アプローチには回転を考慮する二面角数の増加にともって、DFT計算対象となる配座数がべき乗で増加する計算コスト面での困難さがある。そこで、機械学習手法を用いた回帰モデリング技法の適用により、立体規則性決定に重要となる低エネルギーのTS配座の優先的探索の手続きの開発を進めている。DFT計算済みの配座を学習データとして、二面角インデックスを説明変数、エネルギーを目的変数として回帰モデルを構築し、未だDFT計算を実行していない全二面角インデックスの組み合わせに対してエネルギーの予測値を算出し、予測値が最小の配座に対してDFT計算を実行する手続きを行うことで、グリッドサーチの全配座計算を行わずともメソ比の収束値を得られることを確認した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

ラジカル重合反応過程を原子レベルからシミュレートすることで、ミクロ物性の1つである立体規則性(タクティシティ)を定量的に再現できる手法の開発を行った。ポリメタクリル酸メチル(PMMA)ラジカル反応のモデル系に対し、複数箇所の二面角回転により生成される576個のTS構造をグリッドサーチ的アプローチにより生成した。これら全TS配座に対してDFT計算により活性化エネルギーからボルツマン因子の重みを算出し、メソ比を再現できる結果を得た。しかしながら、この手続きをポリスチレン系に適用した結果、見積もられるメソ比は実験値から大きくずれた。この差異の原因については現在調査中である。
複雑なモノマーの重合による高分子系への将来的な応用を実現するためには、グリッドサーチ的アプローチでは組み合わせ数が考慮する二面角数のべき乗で増大するため、計算コストが過大となる。そこで、機械学習手法を用いた回帰モデリング技法の適用により、立体規則性決定に重要となる低エネルギーのTS配座の優先的探索の手続きの開発を進めている。DFT計算済みの配座を学習データとして、二面角インデックスを説明変数、エネルギーを目的変数として回帰モデルを構築し、未だDFT計算を実行していない全二面角インデックスの組み合わせに対してエネルギーの予測値を算出し、予測値が最小の配座に対してDFT計算を実行する手続きを行うことで、グリッドサーチの全配座計算を行わずともメソ比の収束値を得られることを確認した。

今後の研究の推進方策

引き続き高分子ミクロ物性の定量的予測を実現するシミュレーション技法の開発を推進する。バルク相ラジカル重合により合成されるポリメタクリル酸メチル(PMMA)の立体規則性に対する解析成果を土台として、現在進行中のポリスチレン(PS)系など異なるターゲットへと解析対象を拡大し、本開発手法の汎用性を拡張する。PS系ではPMMA系の手続きをそのまま適用した結果、実験値を再現できなかったため、PS系のTS構造が示す特徴、特に二面角回転挙動などに着目してさらなる解析を進め、PS系でも実験的に得られている立体規則性測定値を再現できる手続きを開発する。その上で、有機金属錯体のナノ細孔環境下において合成されるPMMAなどが示す立体規則性制御機構の分子レベルからの解明に向けて研究を進める。
以上の拡張を進める上で、計算対象系が大規模化することが想定される。これへの対応として、既にCPUにより実行していたMD計算部分を高速なGPUで実行できるように、重合反応シミュレータの改訂を進めた。その上で、グリッドサーチによらない効率的な低エネルギーTS配座探索の手続きについてさらなる研究を進める。昨年度時点では二面角インデックスを説明変数とする重回帰あるいは正則化回帰を適用していたが、より柔軟なモデル構築を実現する非線形回帰手法を適用するなど、高度な回帰モデリング技法を適用する。これら主として計算コスト増大に由来する技術的課題の解決を推進し、汎用的な高分子立体規則性予測手法の開発を進める。

次年度使用額が生じた理由

新興感染症の影響により、学会参加に伴う出張、共同研究者との対面打ち合わせのための移動が全て中止となったため、旅費の執行額は0となった。このため当初計画にはなかった可視化用パーソナルコンピュータの導入などを進めたが、残額が発生したため次年度使用額が生じることとなった。
次年度には、当初予定した旅費についても引き続き感染症の影響で執行額が大きく減少することが見込まれるため、新規シミュレーション用計算機の導入によりさらなる研究の加速の実現を計画している。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)

  • [雑誌論文] Metal‐Organic Frameworks for Practical Separation of Cyclic and Linear Polymers2021

    • 著者名/発表者名
      Sawayama Taku、Wang Yubo、Watanabe Tomohisa、Takayanagi Masayoshi、Yamamoto Takuya、Hosono Nobuhiko、Uemura Takashi
    • 雑誌名

      Angewandte Chemie International Edition

      巻: 60 ページ: 11830~11834

    • DOI

      10.1002/anie.202102794

  • [雑誌論文] Ab Initio Quantitative Prediction of Tacticity in Radical Polymerization of Poly(methyl methacrylate) by a Molecular Simulation Technique with the Conformation Indexing for Multiple Transition States2020

    • 著者名/発表者名
      Zizhen Rao, Takayanagi Masayoshi, Nagaoka Masataka
    • 雑誌名

      The Journal of Physical Chemistry C

      巻: 124 ページ: 16895~16901

    • DOI

      10.1021/acs.jpcc.0c01812

    • 査読あり
  • [学会発表] Red Moon法に基づくポリマー重合シミュレーションへのデータサイエンス的手法の導入2020

    • 著者名/発表者名
      高柳 昌芳
    • 学会等名
      マテイアルズインフォマティクス講演会 ~材料科学と情報科学のクロスオーバー~
    • 招待講演

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公開日: 2021-12-27  

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