研究課題/領域番号 |
19K05373
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
太田 薫 神戸大学, 分子フォトサイエンス研究センター, 特命准教授 (30397822)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | テラヘルツ分光法 / 時間分解分光法 / 有機薄膜太陽電池 / 電荷キャリア |
研究実績の概要 |
我々はこれまで時間分解テラヘルツ(THz)分光法により、ポルフィリン系有機薄膜やフラーレン誘導体とのバルクヘテロ接合型薄膜の電荷キャリアダイナミクスを測定し、その緩和メカニズムについて明らかにしてきた。電荷キャリアはTHz領域に特徴的な吸収を持つため、時間分解THz分光法を用いることにより、電荷キャリアの生成、緩和過程や伝導率などについての詳細な情報を得ることができる。しかし、測定感度が低いといった問題点があった。2019年度はまず、光整流法によるTHz光発生と電気光学効果を利用したTHz光検出の光学系の構築、改良を進めた。ここでは光ヘテロダイン検出法の原理と組み合わせ、バックグラウンドとなる検出光の強度を最小化することにより、測定感度を向上させることを目指した。まず、測定に必要な光学系を上記の目的に叶うように改良した。この手法に加え、THz発生、検出パルス光間の遅延時間を変える電動ステージを連続的にスキャンさせることにより、テラヘルツ光の電場波形計測の高速化を行い、時間分解THz分光測定に応用した。参照サンプルとしてバルクのGaAs基板の測定を行った。この2つの手法を組み合わせることにより、短時間で時間分解テラヘルツ分光信号を測定することが可能になった。また、THz光発生、検出にGaP結晶を用いた場合の実験も行った。THz信号を観測することはできたが、発生用の励起光のパワーが弱いため、充分な信号強度が得られていない。さらに、近赤外領域での過渡吸収の計測系を構築する準備段階として、InGaAsイメージセンサを用いた検出器を製作し、動作確認を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高感度テラヘルツ時間波形計測系の構築については、ZnTe結晶を用いて光ヘテロダイン検出法と組み合わせるにより、測定感度を向上させることが可能になった。さらに、申請の時点では予定していなかった遅延時間を変える電動ステージを連続的にスキャンさせる方法が感度向上に有効であることがわかり、研究自体は順調に進んでいる。また、可視‐近赤外領域の過渡吸収測定系については近赤外領域での測定の要となるマルチチャンネル検出器の製作や動作チェックも完了している。
|
今後の研究の推進方策 |
現在、GaP結晶を用いた測定系では十分な感度が得られていない。入力する励起光のパワーを上げる以外に、集光条件などの光学系の問題点を明らかにし、時間分解テラヘルツ分光法の広帯域化、高感度化を目指す。また、完成した近赤外マルチチャンネル検出器を過渡吸収測定系に導入し、可視‐近赤外領域の過渡吸収測定が可能になるようにする。これらの測定系を用いた研究により、有機薄膜太陽電池などの光エネルギー変換材料の電荷キャリアダイナミクスを明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新規に高性能な偏光子や放物鏡などの光学部品を購入する予定であったが、既存のものを流用し、実験を行ったところ、測定感度に問題がないことが分かった。さらにステージコントローラなどの制御機器も自作することで電動ステージを連続的にスキャンさせる方法を取り入れることができたため、大きな設備備品を購入することがなく、対応することができた。さらに、レーザーは定期的にメインテナンスが必要であるが、2019年度は出力の大幅な低下などのトラブルがなく、レーザー調整費が発生しなかったことなどが次年度使用額の生じた理由に挙げられる。2020年度はGaPを用いたTHz発生、検出法では異なる厚さの結晶を用いて、測定感度を比較することを予定している。そのために請求した助成金を使用することを考えている。また、集光条件を最適化するために焦点距離の異なる放物鏡などの光学部品を購入することを計画している。
|