本研究の目的は,原子検出法の一つである紫外2光子励起法の検出波長域を従来の赤外から真空紫外に変更し,検出効率を約2桁向上させることである。また,検出限界を左右する,2光子励起準位の他分子との衝突による消光過程の速度論的な研究も並行して進めた。 初年度に,真空紫外発光検出装置を製作し,酸素原子O((2p)4 3P)の検出に成功した。研究期間前半には,酸素および硫黄原子の真空紫外発光寿命の圧力依存性の結果から,2光子励起準位(酸素:(2p)3(3p) 3P,硫黄:(3p)3(4p) 3P)のHeおよびN2による総括消光速度定数および状態選択的分岐比(酸素:(2p)3(3p) 3P → (2p)3(3s) 3S,硫黄:(3p)3(4p) 3P → (3p)3(3s) 3S)を決定した。総括消光速度は酸素原子ではHeよりもN2が300倍,硫黄原子では26倍速いが,状態選択分岐比はすべての場合で20 %前後となり,準位構造の類似性を反映していることが判明した。 研究期間の後半は対象をハロゲン原子に拡張し,3年目は臭素原子,最終年度は塩素原子の紫外2光子励起真空紫外発光検出に成功した。基底電子配置と2光子励起準位群の間の25本の許容遷移のうち,塩素原子では18本,臭素原子では20本の検出に成功した。検出されなかった遷移のうち4本は2原子に共通ですべて4重項状態であることから,スピン-軌道相互作用が大きいハロゲン原子でも完全にはスピン禁制が破れていないことが明らかになった。 検出効率については,4種の原子とも限界濃度が約10^11 cm-3となり,従来法の10^13 cm-1よりも検出効率を約2桁向上させる目的を達成することができた。本研究の成果により,燃焼化学,大気化学,プラズマ化学等の分野における高精度な濃度測定や診断が可能になる意味で学術的意義は大きい。
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