研究実績の概要 |
フェムト秒時間分解過渡吸収(TRTA)スペクトル測定により、以下のような研究を行った。 【1】2つのインジゴ誘導体N,N’-bis(tert-butyloxycarbonylmethyl)indigo(tBOMI)とN,N’-dimethylindigo(DMI)について測定を行った。その結果、シス体は、隣接するカルボニル基同士のクーロン反発により不安定化し、励起状態寿命が短くなり、トランス体への光異性化量子収率が高くなることが判明した。これらの結果は既に論文として発表ずみである。[Y. Kihara, et al., J. Phys. Chem. B, 126(19), 3539 (2022)] 【2】ヘミインジゴはindoxyl部位とベンゼン部位をC=C結合で連結した非対称な構造をした分子である。インジゴのシス体は熱的に不安定で、暗所でもトランス体に変異してしまうが、ヘミインジゴは両異性体ともに熱的に安定で、光異性化しか起こさない。そこで、TRTAスペクトル測定により両者の反応ダイナミクスの比較を行った。その結果、2つのヘミインジゴ誘導体について、置換基効果と溶媒依存性に関する知見が得られたので、現在論文を執筆中である。 【3】フェノールブルー(PhB)のエタノール溶液では、無輻射失活に伴って基底状態吸収帯のブリーチがピコ秒時間領域で長波長シフトしていく過程が観測された。メタノール溶液でも同様な実験結果が得られたが、50ピコ秒でもシフトは完了していなかった。この結果は、プロトン供与性溶媒中では系に不均一性が生じ、その寿命はメタノール溶液のほうが長いことを示唆する。これに対し、非プロトン供与性の極性・無極性溶媒(アセトニトリルとトルエン)では、分子間水素結合が存在しないため、このような不均一性は観測されなかった。現在、これらの実験結果をもとに論文を執筆中である。
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