近年、摩擦界面で力学的に誘起される化学反応により、nm厚さの潤滑フィルムが摩擦界面に自己形成し、摩耗と自己修復を繰り返しながら低摩擦を発現することが報告され、新たな摩擦低減技術につながる現象として注目されている。しかし、詳細な機構は未解明で、摩擦低減技術の発展のために解明が求められている。本研究では、新たな摩擦低減技術の構築を目指し、分子動力学法に基づく摩擦シミュレーションから自己修復機構を明らかにすることを目的とする。 昨年度まで、水中で超低摩擦を発現することが知られている炭化ケイ素(SiC)を対象に、潤滑フィルムの自己形成機構の解析を行った。その結果、SiC表面同士の接触領域において力学的にSiC表面と水の反応が誘起され、Si原子はシリカ(SiO2)粒子として表面から脱離して水に溶けてコロイダルシリカ層を形成し、C原子は接触領域に残り炭素層を形成することを明らかにした。粘度の高いコロイダルシリカ層は潤滑液として機能し、炭素層は表面の安定な水素終端によって凝着を防ぐ低摩擦コーティングとして機能する潤滑フィルムとなる。 本年度はこれまでの結果を基に、潤滑フィルムの摩耗と自己修復機構の解析を行なった。その結果、以下のような機構が明らかになった。摩擦によって潤滑液のコロイダルシリカ層が枯渇(摩耗)すると、SiC表面の炭素層が相手面と接触し、炭素層の摩耗が進行する。この間、炭素層は相手面との凝着を防ぎ、急激な摩擦上昇を抑制する。一方、表面には凹凸が存在するため、相手面と接触せずに水と未反応の領域が存在するが、炭素層の摩耗によって表面が平坦化していくと、未反応の領域も相手面と接触し、水と反応して新しい潤滑フィルムが生成される。このように、潤滑フィルムの摩耗と未反応のSiC表面の反応が同時に起こることで摩耗と自己修復機構が継続的に起こり、低摩擦を維持するメカニズムが明らかになた。
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