研究実績の概要 |
金属錯体の酸化還元電位は電子授受のプロセスを知る上で大事な物性の一つであるが, これらの値を即座に知る方法は現在のところ限られている. そこで, 計算(簡単のため誘電体モデル, 具体的にはPCMを利用)によってそれらを予測して酸化還元電位のデータベースを作ることが最終年度の目標である. 具体的には溶媒和モデルを用いて, 構造最適化の後に振動解析を実行してギブスエネルギーを計算した. また, 金属錯体のデータとして, 39種類の3d金属錯体の実験値を使用した. また, 酸化還元電位の算出には, 当グループで開発した擬カウンターイオン溶媒和法を用いた. 結果, LC-BLYPにおけるパラメータを各錯体でフィットしたものを使用した場合の酸化還元電位を算出すると, 平均絶対誤差 (MAE)で0.27 Vとなり, デフォルトのパラメータを使用して全ての錯体の酸化還元電位を計算した場合のMAEである0.20 Vよりも大きくなった. 以上のことから, HOMO-LUMOギャップに関する補正を入れた結果として, 誤差が大きくなってしまうという問題を発見した. データベース作成の前に誤差を最小にする相関汎関数を選定する必要がある. 研究期間全体を通じて明らかとなった事項をまとめると, (1) 分配係数については量子化学計算の結果よりも溶媒和モデルで得られた結果を補正することで, より良い結果を得ること (2) 酸化電位の研究では, 分子のサイズに依存した誤差が生じていることが分かり, 既往の密度汎関数理論では, それを打ち消し合うように誤差が出ていること (3) 酸解離定数の計算では, 線形近似でかなりの精度を得られるために, 誤差を修復するために効果的な指標を決定するに至らなかった (4) 金属錯体においては, 密度汎関数理論での修正よりも溶媒和モデルの修正が効果的であること の四点となる.
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