多数の異種分子が複雑に相互作用する混雑系における構造形成を捉えるにあたって,理論研究の立場から考えられる重要な課題は,「そうした構造形成の様相を予測し得る能力の向上」と,「構造形成と分光シグナルの対応関係の確立」であると考えられる。そのために,含ハロゲン化合物がタンパク質分子への薬剤活性を発揮するケースにおいて鍵となるハロゲン結合について,電子分布の異方性・分極の効果・置換基効果を正確に分離した精緻なポテンシャル関数系を整備するとともに,混雑系における静電環境のプローブとなる分光シグナルの特性や,双極子微分量が大きい官能基が混雑する場合における中距離的構造形成とスペクトル形状の相関に関する解析を進める。 令和4年度においては,前年度までに結果が得られた「フッ化水素の水素結合鎖の構造的特徴を生み出すメカニズム解明」について,国際会議で講演をおこなったほか,前年度の「水素結合との協同効果により強度増大するハロゲン結合系を対象とした,電子密度に基づく解析による強度増大メカニズムの解明」について,Phys. Chem. Chem. Phys.誌に論文として発表した。そして,これらをまとめて,別の国際会議で講演をおこなった。 一方,ハロゲン結合形成によりスペクトル強度が大きく変化する事例については,2019年に論文として発表した結果を受けて,さらに解析を進めているが,スペクトル強度だけでなく他のプロパティを含めて総合的に解析することが望ましいことが,最近の研究動向から分かってきたため,今後の課題として研究を展開する予定である。
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