研究実績の概要 |
金属表面におけるNO分子の解離過程は、重要な触媒反応素過程の一つである。しかしながら、NO分子の反応挙動は金属の種類により異なることが実験的に知られている。貴金属の減量・代替を目指した新規な触媒開発のためには、触媒の構成元素と電子状態の関連や電子状態に基づく反応過程の理解が不可欠である。本年度は、NO分子に対して反応性が異なる4種の4d金属、Ru, Rh, Pd, Agに着目し、その起源をDFT計算で検討した。 金属クラスターを用いた反応機構の検討から、Ru, RhではNO解離吸着が、AgではNO二量化が、小さな活性化障壁と大きな発熱で容易に進行することが示された。一方、Pdでは、解離吸着、二量化ともに大きな活性化障壁があり、NO吸着後の反応が困難であることが示された。この結果は、実験結果と一致している。状態密度および分子軌道解析から、金属のvalence-band-topのエネルギー準位とキャラクターがこれらの金属で異なることが示された。エネルギー準位は、Ru, Rh, Pdの順に低くなり、Agで増加する。また、Ru, Rh, Pdでは4d軌道が、Agでは5s軌道がvalence-band-topとなる。Ru, Rhでは準位の高い4d軌道とN, O原子の2p軌道により強いdπ-pπ相互作用が形成されるため、遷移状態や生成物が大きく安定化して、解離吸着が有利であることが示された。Agでは5s軌道がvalence-band-topとなりdπ-pπ相互作用は見られないが、5s軌道の形状からNO二量体のON-NO結合性軌道への電荷移動が容易に起こり、NOの二量化が進行することが示された。一方、Pdでは4d軌道がvalence-band-top であるが、準位が低いため、いずれの反応も不利となる。 以上の結果は、新規な触媒設計において、反応性と反応メカニズムを予測する重要な指針となる。
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今後の研究の推進方策 |
豊富に存在する3d金属を有効に利用することが、貴金属の減量・代替を目指した新規な触媒設計の重要な方向性の一つである。そのためには、先に示した4d金属上のNO分子の反応挙動に関する電子論的理解が、3d金属でも有効であるかを確認する必要がある。先ず、3d金属クラスター (Fe, Co, Ni, Cu)上のNO分子の反応性・反応メカニズムの検討をおこなう。実験的には、Fe, Co, NiではNO解離吸着が、CuではNO二量化が報告されている。また、X族3d金属であるNiはNO解離吸着を示すが、X族4d金属のPdは NO分子吸着を示す。さらに、XI族4d金属であるRhは触媒として用いられているが、XI族3d金属であるCoは触媒ではない。この3d金属と4d金属の相違点を金属の電子状態から明らかにし、なぜ3d金属が触媒として利用されていないのか、どのように電子状態を変化させれば触媒としての利用に繋がるのかの検討をおこなう。このために、NO解離吸着に加えて、N2生成やCO2生成などのNO-CO反応プロセスを検討する。この知見は、今後の金属の複合化による触媒設計において不可欠となる。 最近、Cu/Ni複合金属微粒子触媒が、高活性な自動車排気ガス浄化触媒となりうることが実験的に報告された。これは、Cu/Niの還元の容易さが高活性の要因の一つであると考えられている。NiとCuが接合することにより、どのような金属の電子状態が起こり、反応性が変化するのかについて、電子論的な理解はなされていない。そこで、3d金属を用いた複合金属微粒子触媒の例として、Cu/Ni金属クラスターに酸素原子を吸着させたモデルを構築し、電子構造の相違の点から還元反応過程を検討する。これらの検討により得られた知見に基づき、3d金属を用いた様々な複合金属の組み合わせを検討し、高活性な触媒の候補を提案する。
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